保存不能

クラウンが取れてしまったので診て欲しいと遠く北国からのメールが写真付きで届きました。

返答は診てみないと解らないことが前提になりますが、この時点では大丈夫そうに思えたのでその旨をお伝えしました。

来院された時の写真です。

これはかなり厳しいとお話ししました。何度か書いていますが最終的に歯を保存できるかどうかは、どのくらい健全な歯質が残っているかにかかっています。たとえ保存できたとしてもすぐに割れてしまう可能性もあるわけで、無理に残すよりも抜歯してインプラントにするということが、結果的には正しい選択である場合もあるということはしっかり伝えておかなければなりません。

それでも患者さんは保存を希望されたのでCTを撮影しました。

更に保存の難しさが見えてきます。歯の厚みがありません。もうこの時点で引導を渡すのが正しかったのかも知れませんが、それでもなんとか保存したいというご希望でしたので、着手して私がダメだと診断したら諦めて頂くということをお話しして軟化象牙質を削除しました。そして十秒で保存不能の診断を下しました。

マイクロスコープでの画像ですが青線の中の部位は歯質がありません。

ここは髄床底(ずいしょうてい)という部位ですが、通常ここを削ることには何の意味もありませんしここがむし歯になることもまずあり得ません。歯科医師は歯を無駄に削りすぎます。

保存不能の診断を下すまで来院されてから90分程度です。そこに改善の余地はあるとは思いますがこれを無駄な時間と思う方には当院はマッチしないと思います。幸いそこに価値を見いだしてくださって、一本奥の歯のむし歯治療とこの歯の抜歯とインプラント治療をご希望されました。

抜歯した歯はこれです。三分割しました。ダメでしたね。

当院のコンセプトはできる限り歯を残すことでなのですが、それが絶対的に正しいのかはわかりません。それでも抜歯の判断は初診で数分で決めてしまうような簡単なことではないと思うのです。

追記
全てのケースでこのように時間を掛けるわけではありません。一瞬で抜歯以外の方法は無いと診断する場合もあります。

遊離歯肉移植術(FGG)

ホームページに掲載していた古いケースです。書き換えのためこちらに移行します。

歯の周囲の付着歯肉と呼ばれる部位はホッペタを引っ張ったりしても動きません。一方可動粘膜(遊離歯肉)は頬を引っ張ればいっしょに動いてきます。インプラントの周囲の歯肉が可動であることはあまり歓迎されることではありません。天然歯においても同様です。

このような場合に行われる歯周形成外科は、遊離歯肉移植術(free gingival graft. FGG)というものです。口蓋からこのように上皮付きで移植歯肉を採取します。

移植片を縫合したところ。

口蓋採取部。一週間ほどで日常生活に支障のない程度まで回復しています。

術後。

デジタルで作製したインプラントのセット

何の変哲も無い単独植立のインプラントですが、初めてのフルデジタルによる作製です。技工所に送るのは、宅配便での印象や模型ではなくデジタルデータ。もちろんオンラインです。

保険診療をしない私が書くのも何ですが、本当は保険診療にこそ取り入れられるべき技術だと思うのです。パーフェクトなデジタル印象は難しいですが、そこそこの合格点なら出せると思います。印象剤も石膏も必要なくなります。そしてこれはデジタルと直接関係があるわけではありませんが、結果的に保険財政を強烈に圧迫している歯科用金属を使わなくて良くなるわけです。金属の高騰は強烈で、歯科医院は「9万円で仕入れた商品を5万円で売っている店」のような状況のようなのです。