総義歯(その4)

その3はこちら。

技工所から完成義歯が届いたらシリコンでこんな準備をしておきます。シリコンは弾性があるので理論的には石膏でやるのが良いのでしょうが、石膏だと義歯を外したり戻したりするのが難しいのです。経験上、咬合調整においてはシリコンの弾性は無視できると思います。

テンチのコアを使って上顎をマウント。テンチのコアに完成義歯はピッタリとは戻りません。それ自体は調整への影響は無視できるのですが、重合の歪みをリアルに見ることができる瞬間です。

咬みあわせを取って下顎もマウント。このステップがこの方法のとても残念なところなのです。完成した義歯にもう一度ゴシックアーチトレーサーを付けてマウントすれば良いのでしょうが、そこまでやった経験はありません。
しかしこれはゆくゆくはデジタルが解決してくれると思っています。デジタルなら理論的には重合の歪みは無いはずですから。


カチカチ

こんな跡がつきます。リンガライズドオクルージョン。

いよいよというか、漸くというか、遂にというか、セット。

義歯は歯茎という柔らかい組織に乗せるので、クラウンなどの被せ物の治療とは全く違うところがあります。また、顎の骨や粘膜の状態も千差万別です。そして患者さんの適応性にも差があります。幸いこのケースでは「歯が入ったから見に来い」と呼ばれたと、この方のお友達の患者さんが仰っていました。セット後に何のご連絡も無いのできっと上手くいったのでしょう。患者さんの満足が歯科医師のビタミンです。

総義歯(その3)

(その2)はこちら。

配列後。この状態で見た目のチェックを患者さんのご希望を訊きながら行います。仮縫いのようなものです。ピンクの部分はワックス(ロウ、ロウソクのロウです)でできています。溶かして歯を動かすことができます。

口の中に入れてみます。試適(してき)といいます。噛み合わせはどうか? 舌が窮屈では無いか? 前歯の歯並びはどうか? などを患者さんと確認します。特に見た目は個人的な好みなのでご希望をじっくり確認します。唇の動きの中で見ていく必要がありますから世間話なんかしますね。ジャガイモ植えたので腰が痛いそうです(笑)。写真も一応は撮りますがあまり参考にはなりません。かっこよく言えば「動的平衡」を探します。単語の使い方が間違っていますがここでは「動きの中でバランスをとる」というようなニュアンスです。患者さんの希望に沿ってその場で歯を並べ替えます。

さてここまでくれば次はいよいよ完成です。ワックスをレジン(プラスティック)に置き換えます。レジンは固める際に変形する材料ですので慎重な技工操作が求められますが、それでも変形は避けられません。その為、完成後にもう一度咬合器につけなおして咬み合わせを調整する必要があります。技工所に外注で義歯を作ってもらう場合には模型は残らないので、完成義歯が届いた後に咬合器につけなおすための記録を取っておきます。テンチのコアといいます。

義歯、特に総義歯は、口の中で咬んでもらって咬みあわせを調整するというのは殆ど不可能です。軟らかい粘膜の上に乗っているわけですからちょっとしたズレは吸収してしまうのです。それで問題が出なければここまで神経質にやる必要は無いのかも知れませんが、入れた後に調整が必要になる可能性はなるべく排除しておきたいのです。

院内技工(私が作る)場合はもっと正確に咬合器に戻す方法があるのですが、さすがに義歯を自分で作るのは大変なので今はやっていません。

続きます。

総義歯(その2)

その1はこちら

ゴシックアーチトレーサーという装置を入れて、カチカチ噛んでもらったり顎を前後左右に動かしてもらうとこのように軌跡が残ります。

見やすくするとこんな感じ。この矢印のような跡の先端が咬み合う位置です。この軌跡が安定しない場合は難症例です。

矢印の先に穴を合わせて板を張り付けて、咬み合わせの記録の際にズレないようにします。下顎の装置についているピンがここに入り込むわけです。

咬んでもらってそこにこのオレンジ色のシリコンを流し込んで、上下の関係を記録します。

そして下顎の模型を着け直します。

これで歯を並べる準備が完了しました。

続きます。