根管内吸引洗浄

このケースの続きです。

唐突ですが、根管の中をくまなく綺麗にするのはファイルだけでは不可能です。根管はストローのように丸くはないので断面が丸いファイルでは触れない部分が出てくるのです。触っていなければ機械的に綺麗にすることは当然できません。下の写真のようなファイルもあります。使い古して曲がってしまっているわけではないんですよ。らせん状なのでストレートな形状に比べ、より根管内壁に触れることが可能になります。最近のアメリカの歯内療法専門誌にはこれを3000回転/分で回すと成績が良いと書いてあります。

それでも研究によると(詳しい数字は忘れましたが)この形状のファイルでもビックリするほど効果があるとはいえないのです。

そこで薬液による洗浄が重要になってきます。世界標準で使われている薬液はNaOCl、次亜塩素酸ナトリウムです。殺菌と有機質溶解作用があります。口の中にこぼれると危ないのでラバーダム無しでは使えません。

注射器のような器具で洗浄液を根管の中に注入するのですが、それだけでは実際には上部にしか液は届きません。かといって闇雲に強い圧を加えると、今度は根尖から漏れ出して重篤な事故を起こします。それを解消するために様々な器具や方法があります。臨床ではいろいろな方法を組み合わせて用いることでそれぞれの欠点を補うことが推奨されています。

比較的大きく拡大された根管では吸引する針を根尖近くに置いて、上部から薬液を注入するという方法が使えます。根管内吸引洗浄(intracanal aspiration technique)といいます。専用の器具もあるのですが高くて買えません(汗)。動画を貼っておきますが原理はごく簡単です。

通常の洗浄針は細い物で27Gという規格です。太さ0.27ミリです。ファイルだと30号が0.3ミリなので最低でもそこまで拡大する必要があります。ですが実際に使ってみるとそのハリの太さでは、吸引してもすぐにカスで詰まってしまうのです。30Gでも詰まります。ですから私は細い根管で使うのはちょっと難しいなと感じています。あくまでも私の場合です。

下の写真のシリンジの先が27Gの針です。

さて今回のケース。下の動画に映っている透明のチューブが吸引側です。このくらいの太さがあればストレス無く吸ってくれるのですが、太いので根尖のすぐ近くまでは到達していません。ですがその前段階で使っている音が出る洗浄機はしっかり根尖近くまで届いています。

 

根管を拡大するのは洗浄の効率を上げるためだと言われるほど、根管洗浄は重要です。感染根管は汚れちまった悲しみなのです。なすところあり日はのぼる。

保存か抜歯か?

根尖病変がある上顎4番。

病変の大きさは抜歯の基準ではありません。「根の先の膿」は多くの場合治癒するからです。根が割れている場合。むし歯を削り取ると歯がなくなってしまう場合。重度の歯周病の場合。これらが抜歯の基準になります。
判断が難しいのが、残してもその後長期に機能するかどうかです。治療のオプションにインプラントが登場して以来、更に答えを出すのは難しくなりました。

リスクを抱えて残すより、抜歯してインプラントというのも合理的な判断だと思います。明らかに保存可能な歯を抜歯してインプラントを奨めるなどというレベルの話ではありません。しかし当院を選んでくださる患者さんは、リスクを取ってでも何とか残したいという希望の方が殆どです。またそういう希望に添える医院であろうと思っています。

麻酔下で歯肉切除を行い、軟化象牙質を染色液を何度も使って除去して保存してみようと診断するまでに60分以上は掛けています。

根管治療の後、エキストリュージョン、あるいは外科的廷出が必要です。

 

メタルポスト除去・ガッタパーチャ除去・レッジ攻略

メタルポストの入った感染根管

レッジを作ってしまったようでその位置までしか根管充填がなされていません。

根尖には病変。向かって右隣の歯も当院での根管治療ですが、どちらの歯もポストの形成が根管を逸脱しており、もうちょっとでパーフォレーションです。

メタルポストの除去、ガッタパーチャの除去、レッジを修正して根尖まで拡大してこの日の治療は終了。約90分の治療時間でした。