クラックのある樋状根の感染根管治療(その4・ 5ヶ月経過)

このケースです。被せていたセレッククラウンが欠けてしまったので作り直しです。被せ物が欠けるのは歯根に掛かる力をかわすことができる(ような気がする)のでこれはある意味想定内です。当院で使っているセレック用のマテリアルのリューサイト系ガラスセラミックスの破折強度はやはりジルコニアなどに比べると劣っています。

このレントゲンだけではなんとも言えませんが、病変は少なくとも悪化はしていないように見えます。思いっきり贔屓目に見れば病変は無くなっています。勿論不快症状はありません。

術前(3年ほど前)
術直前のCT
根充後
五ヶ月後

何か症状があればCTを撮ることもありますが、ただ単に経過を見るためだけのために撮影することは今のところ私はしていません。また病変の縮小や治癒を確認してから被せるということもしていません。根管治療が終わって痛みが消えていればすぐに被せてしまっています。

歯を削らない接着ブリッジ

この欠損をどう治療するか?
インプラント、ブリッジ、入れ歯の三択です。
入れ歯はあまり選択されません。インプラントにするなら骨増成が必要です。

デジタルシミュレーションです。

ブリッジが無難なのですが下の画像をご覧下さい。

赤丸の中の歯並びがブリッジの障害になります。ブリッジのために歯を削ると神経を抜かなければならなくなる可能性が非常に高いのです。下の写真の赤い部分が神経ですがはみ出しているのがわかると思います。
それを避けるためには矯正治療を事前に行うことですが患者さんはそこまではご希望になりませんでした。そしてなるべく侵襲の少ない治療法をご希望になりました。それそれの治療法のメリットとデメリットを可能な限りバイアスを排除して説明した結果、接着ブリッジを選択することになりました。

印象(型取り)はとても簡単です。歯肉の下に歯と被せ物の境目が来る場合は光学印象(スキャナで行う型取り)だけでは無理な場合もあるのですがこういったケースではそのような問題はありません。下の模型はネットで送ったデータからラボで3Dプリンターで「印刷」された模型です。ピンクの部分はガム模型と言ってゴムのような材料で歯肉を再現しているのですがこういった手間を惜しまない仕事が結果を生みます。

できあがったブリッジ。赤いのは位置決めのジグです。

このようにして装着の際に使います。

セット後。接着命なのでとても気を使います。使用した接着剤はパナビアV5というレジンセメントです。
強烈に乾燥させているので周辺の歯が白くなってしまっていますがこれは時間をおけば戻ってきます。

どんなケースにも適応する方法ではありません。また通常のブリッジに比べて脱離のリスクは高いと思います。したがってトラブルが起こった場合の対処法は事前に文書で取り交わしておく等の配慮が必要です。ラボ(技工所)には着手前にデータを送ってこの術式が可能かどうかの確認をしておく必要があります。

ジルコニアという丈夫な材料と接着剤の進歩によって可能となった方法です。ですがくどいようですが万能ではありません。
もっとも歯科治療に万能な方法なんてどこにもないのですが・・・

神経の治療を一回で

既に神経を抜いてある歯の再治療の場合は難しいのですが、神経を抜く治療(抜髄)は、特に前歯の場合は殆どは一回で終わります。といっても抜髄は滅多にないのですが・・・。

このケースでも生活歯髄保存療法は可能だったと思いますがその後に続く補綴治療を考えて抜髄を選択しました。詳しい理由を解説するのは長くなるのでここでは省きますが長い目で見てこれが最良だと判断しました。

抜髄は感染さえさせなければ成功率は高い治療です。なので感染の機会を少なくするために一回で終わらせるのがベターなのです。教科書どおりにやれば成功率は90%を軽く超えます。