Pathways of the PULP

アメリカのエンドの教科書とまで言われている本なので、酔った勢いでAmazonで購入しました。専門書としては普通の値段だったので、まさかこんなに分厚い本だとは思いませんでした(大汗)。
907頁もありました。ある意味お買い得です。

洋書だけに読むのは要所のみにします(冷たい汗)。

 

 

 

 

下顎7番近親根の歯根端切除術

下顎7番近親根の根尖病変。サイナストラクトがあります。

赤丸の部分が病変です。
近親根に根充材が2本見えますが、1本はサイナストラクトから挿入して病変の位置を確認しているガッタパーチャーポイントです。6番が原因ののサイナストラクトの可能性もあったので確認しました。この頃はまだCTの導入前でした。

 

通院に何時間もかけての遠方からの患者さんなので、いたずらに治療回数を重ねることなく2回目の治療でMTAで根管充填しました。

しかし違和感は消えず、サイナストラクトが再発します。抜歯かエンドサージェリーしかありません。選択したのは今にして思えば無謀なのですが、エンドサージェリーでした。マイクロエンドサージェリーではありません。ルーペは使いますがレトロテクニックです。いざ始めてみるととてもマイクロスコープ下で施術できるようなテクニックを私は持ち合わせていなかったわけです。

 

術後3年。根尖を完全にはカットできていないかも知れません。それでもサイナストラクトは消失し、骨も再生しているように見えます。違和感も全くないそうです。感染部位は除去できていたということなのでしょうか。マイクロエンドサージェリーではそこを拡大して確認します。下の写真です。

このステップを踏まない歯根端切除で感染部を除去できたのは幸運だっただけです。たまたま保存できたから良かったのですが、専門的な講習も受けずにやっても殆ど失敗に終わるでしょう。その後専門医のトレーニングを受けましたが、それでも簡単な症例から少しずつステップアップして行く必要がある難しい治療です。実習を受けた程度でできるようになったとは思わないで下さいと、その際何度もインストラクターに念を押されました。あまりに難しい治療(主に部位に左右されます)は専門医に紹介するのがベストです。私もそうします。

さて、一般的には第二大臼歯の外科は意図的再植術が選択されます。この方は下顎がやや前突しており尚かつこの部位の頬側の骨が厚くなかったのでやりました。そしてなにより「先生がやってダメならあきらめます」と言って頂ける関係があったので踏み切りました。信頼に甘えてはいけないし、信頼に応える努力を続けなければならないと思わされた思い出深い症例です。救われたのは私だったというわけですね。

 

 

 

 

イスムス

下顎第一大臼歯近心根に頻発するイスムスです。

 

赤い線で囲んだ部分です。これがやっかいなのは根管のように先細りになっていればまだ良いのですが、根尖方向で広くなっていることがあるのです。そこに取り残した歯髄などの汚れ(debris)が残ります。ボリュームがあるので、感染物質の量が多いのです。つまり細菌がたくさん繁殖します。

 

先日アップした破折根ですが、イスムスがあって2根管が根尖で繋がっています。繋がっている辺りで歯髄腔が広くなっていて、そこに大量にdebrisが残ります。青丸の部分です。確実にこれを取り切るにはイスムスを拡大する以外は無いように思いますが、そうなるとまたしても破折の問題が頭をもたげます。(イスムスを拡大すると破折の危険性が高くなるというエビデンスがあるかどうかは解りませんが、なんとなくそうなんじゃないかという想像です。水酸化カルシウムの長期の根管貼薬は歯質を脆くする。MTAは根の強度を上げるという報告はあります。)逆にイスムス自体にはそこから歯根膜と連結した側枝は殆ど無いので必要以上に洗浄する必要は無いという論もあります。

 

エビデンスがあるかどうかは解りませんが、抜髄根管では感染を最大限に防ぎ、できる限り薬液で洗浄して軟組織を洗い流して最小限の拡大で根管充填。感染根管ではある程度拡大するというような方向で治療しています。実際、薬液による超音波洗浄の効果は顕著で、少なくとも見える範囲ではdebrisはなくなります。洗浄無くしてはとても無理です。しかし根尖付近の洗浄は非常に困難だともされていますから、治療の成功に直接大きく寄与していると単純に考えることもできません。

ことほどさように根管治療は技術的にとても難しい治療です。しかしここを失敗するとどんなにハイカラな歯を被せてもやり直しということになりますから、大切な治療なのです。