総義歯(その2)

一回目の印象から作った模型です。下顎には色々落書きをしています。

上顎の後縁の二つの丸印は口蓋小窩というランドマークです。

下顎。

この模型からこのような精密印象用のトレーを作成します。

咬み合わせを採る物のように見えますが、これが精密印象用のトレーです。開口印象(口を開けて型を採る)では取っ手のようなものが付くのですがこれは閉口印象(口を閉じて型を採る)ためのトレーです。条件が良ければ簡単な咬み合わせも一緒に採得します。

総義歯(その1)

総義歯(その1)

私は大学を卒業した後、総義歯の医局に残っていました。総義歯の臨床は歯を削ったり抜いたりしないので患者さんにマイナスが少ない治療だから、そこから歯科医師としてスタートするのが良いと思ったのです。失敗したら最初からやり直せる。それは間違ってはいないのですがそんな甘いものでも無いわけですね。

総義歯の制作過程を順を追って書いていこうと思います。保険診療ではありません。

色々な方法を組み合わせて自分の必勝パターンを作り上げることが総義歯臨床の面白さです。

さてこのケースです。上顎はイージーケースです。下顎は顎堤(顎の骨)が減ってしまってボリュームがありませんから簡単ではありません。

上顎のスナップ印象(精密印象をする前段階の印象)。トレー(枠)の選択が重要です。上顎はCOEというメーカーの日の丸トレーという総義歯専用のトレーを使うことが多いです。日の丸トレーは日本人の上顎には良いのですが、下顎にはあまり適合しません。下顎はシュライネマーカートレーが合います。それ以外にリムロックトレーを使うこともあります。保険診療ではこれが最終印象になります。

下顎です。

フレームカットバックトレーという特殊なトレー(枠)を使って口を閉じた状態で行います。印象材はシリンジを使って口腔内にデリバリーされます。トレーには硬さの違う印象材を盛っておきます。

一回目のアポイントでは診査と治療説明でしたから、今回のこれは二回目のアポイントです。ここから技工作業をするのですが、精密印象を終えて咬合器に模型を付着するまでは私自身が作業をします。そこに総義歯のエッセンスが沢山あって外注技工の当院ではそうせざるを得ないのです。保険診療ではとてもそんなことは無理ですので私が技工作業にかかわることはありません。

続きます。

総義歯

総義歯は粘膜に吸盤のように吸い付くことで安定します。部分入れ歯のように残っている歯に引っかけて維持を求めることができません。
下の写真は上顎総義歯の印象です。後ろの方の辺縁の厚みを確保して吸着を得ました。このケースはここが薄いと簡単に外れてしまいました。シリコン印象は印象を外してからもう一度口に戻して吸着を確認することができます。そういうことをしても変形しないからです。印象材は石膏、酸化亜鉛ユージノール、コンパウンド、チオコールラバーなどを使ってきましたが、今はシリコン印象一択です。ボーダーモールディング(日本語だと筋形成)と言って、義歯の辺縁を決めていく作業があるのですが、それも専用のシリコンです。以前はスティックコンパウンドという材料を使っていました。無駄に難しかったです(汗)。

 

下の写真は下顎の印象。上の写真とは別の患者さんです。下顎の総義歯は口を開けて印象すると吸着を得るのが難しくなります。従って口を閉じた状態で型を採れるように型枠(各個トレーといいます)を作ります。閉口印象といいます。この形をそのまま義歯の形にします。

 


これはゴシックアーチトレーシングという噛み合わせをとる方法です。総義歯の咬み合わせをとるには最適だろうと思います。エラーが出にくいのです。

大学を卒業して入った医局が総義歯の医局だったので、技工まですべて自分でやっていました。当然多くの症例を経験しました。同じ患者さんに違う方法で複数の総義歯を作って比べてみるなんていうこともやりました。切ったり削ったりという行為がないので、つまり患者さんの体にマイナスのことをやっていないので、正しいかどうか解りませんが倫理的にOKだと勝手に思って、顔見知りの大学病院の職員の方などに患者さんとして協力してもらって総義歯を作っていました。私の総義歯臨床の宝物です。そんなことは、あの時代の大学病院以外ではたぶんできませんから。

他の分野と違って総義歯の治療は技術が陳腐化することがあまり無いので、その頃の知識や技術が今でも通用します。例えばこの本なんて昭和48年の初版ですが立派に使えます。本の上に写っているのがハノー咬合器です。私としては総義歯には最強の咬合器だと思っています。