セメント質剥離

歯の硬組織は、エナメル質、象牙質、セメント質です。セメント質は歯根の周囲を取り囲むような組織で通常は歯肉の下にあるので見えません。

このケース。歯肉が突然腫れてしまって痛いという主訴です。実は直近にダイレクトボンディングを行った歯です。歯周病とは無縁の方でしたので連絡をいただいたときはもしかしたらラバーダムの結紮のフロスを取り残したのではないかと考えて、急遽来院していただきました。

来院していただくと確かに腫れています。フロスは残っていません。痛がっていたので麻酔下で歯肉の検査をするとこの歯だけ深いポケットがありました。ポケットの中を探ると異物を触知します。スケーラーという歯石除去に使う器具を使って掻き出してみました。卵の殻の破片のようなものが出てきました。歯石ではありません。

一週間後の来院では歯肉は大分落ちついていました。マイクロスコープを使ってポケット内を観察すると異物が見えたので、根管治療用の特殊な器具を使って除去しました。下の画像がそれです。

診断はセメント質剥離です。何らかの原因で歯根のセメント質が剥がれてそこに感染が起こっていたようです。歯周病と誤診をしてしまわないように要注意です。さて、はたして剥離したセメント質をすべて除去できたのでしょうか? 経過を追ってもし腫れるようなことが再びあれば歯肉を開いて直視下で除去する必要があると患者さんには伝えました。

パーフォレーションがあって保存を諦めた初めてのケース

他院で再根管治療をしたけれど抜歯を奨められて当院に転院来院されました。初診時のレントゲン。根尖病変があり根管内には破折ファイル。中央付近でパーフォレーションが強く疑われます。所謂コンプロマイズドなケースです。そして遠心舌側根(Radix Entomolaris)の存在も疑われます。

治療をご希望になったので2回目の来院でCTを撮影しました。CTは色々な情報を伝えてくれるのですが、最終的には直接見てみて判断します。

動画をご覧ください。歯冠部の歯髄が入っていた空洞部分(歯髄腔)の底(髄床底)に穴が開いています(パーフォレーション)。当ブログにも何度も登場しているパーフォレーションですがここまで大きいのは初めてでした。閉鎖は可能ですが問題はその後の歯の寿命です。根を分割して残すという手もありますがそこまでやると治療費はインプラントよりずっと高額になります。骨にずいぶんダメージがある状態でインプラントは私の手に余るので、ご希望なら他院を紹介するとお伝えし、当院での治療は終了です。一番大切なことは患者利益を考えることです。