神経障害性疼痛関連歯科学会合同シンポジウム2019

口腔顔面領域の疼痛にはいろいろなものがあります。昨日はそのセミナーでした。何年か前に受講した非歯原性疼痛のセミナーが面白かったので今回も受講しました。私の臨床に繋がる内容ではなかったのですがもちろん勉強にはなりました。

以下は当ブログの関連エントリーです。

神経障害性疼痛

口腔顔面痛

口腔顔面痛

歯が痛いと来院された方で、原因の歯を特定できないことがあります。
歯科医としては目の前で苦しんでいる患者さんをなんとかしてあげたいと治療に介入したくなりますが、原因が特定できない場合は触れません。触ってはいけないのです。

例えば上の図の中央付近のエメラルドグリーンの部位は、三叉神経節という所ですが、ここに異常があると歯に原因が無くても歯が痛いと感じることがあります。なんとか助けてあげたいという善意から治療に介入すると、健康な歯を削って、神経を抜いて、それでも治らずに抜歯して、それでも治らずに隣の歯を削って・・・。という悪循環に陥ります。無知からくる善意は時として悪意より厄介なのです。その最たるものが放射能の風評被害です。

以下、口腔顔面痛の関連エントリーです。
非歯原性疼痛
神経障害性疼痛

ところで上のイラストは、ヒューマン・アナトミー・アトラスというソフトで書きだしたものですが、患者さんへの説明に解剖図が必要な時にはとても重宝します。ご同業の方には強くお奨めします。これはご自由にスルーできる私からの善意です(真顔)。

 

非歯原生疼痛

先日受講したセミナーのレポートがありました。
こちらです。

これはマイクロスコープを臨床に導入した頃に治療した症例です。多くの患者さんは他院での治療で改善しないという理由で当院に来院されます。この方も抜髄根充後も疼痛が続くので色々調べて来院されました。歯科治療に対する知識も深く治療の説明も良く理解して下さいました。

術前

術中

根充後

歯内療法によるトラブルは大抵の場合は1〜2回の治療で改善するのですが、この症例では良くなったようでもまた痛み出すことがあるという経過を辿ります。結局スッキリ何の違和感もないというところまでは持って行けず、しかしそれなりに安定したという状況で補綴を終えました。治療回数は5回程度だったと記憶しています。根管治療はいたずらに治療回数を重ねても効果はありません。引っ越しされて、1年程度の経過後に来院されましたがほぼ安定していました。

その頃はまだ非歯原性疼痛に関しての情報は今ほどはなく、私自身も殆ど知識がありませんでしたので簡単にその可能性をお話しして歯科治療を開始しましたが、問診の記憶から、今にして思えばこれは非歯原性疼痛だったように思います。だとしたら治療のファーストチョイスは薬物療法であり、私にできることは専門医の紹介だったのです。

因みに薬物療法には抗うつ薬が使われることがありますが、これはうつ病に対して処方されるのではなく、抗うつ薬が、痛みを伝える神経伝達部位に作用して効果を発揮するからです。その点については誤解されませんように。
とはいえ、当院は院内処方ですので抗うつ薬を持ち合わせていません。また、一般的な歯科医院で抗うつ薬の処方が可能かどうかも解りません。

歯科は殆どの場合診断は全くもって容易なのですが、希にこのようなことがあるのです。先日、別の講習会で歯内療法専門医にその質問をしてみたところ、痛みが引かない根管治療の3割程度(確実な記憶ではありません)はオロフェイシャルペイン、つまり口腔顔面痛だったという答えが返ってきました。歯内療法専門医院ではトラブルをもつ患者さんが殆どでしょうから、一般的な歯科医院よりその確率は高いだろうとは想像していましたが、驚くべき数字でした。傾向として痛みを長期にわたって我慢していた歯髄炎と、外傷による歯髄炎の場合にオロフェイシャルペインに移行する場合が多いような気がするとのお話しでした。

因みに昨日も下顎総義歯の患者さんが、義歯が当たって痛いということで来院されましたが、痛みの原因は三叉神経痛か帯状疱疹後神経痛の可能性が高くその旨ご説明しました。「電気が走るような痛み」は三叉神経痛の特徴的な症状です。また皮膚に触れただけで痛いのは(アロデニアと言います)帯状疱疹後神経痛の症状のひとつです。
義歯が当たって痛いという場合は、咬めば痛いという確実な症状の再現性があります。