外科的廷出

差し歯が取れてしまったと来院されました。歯肉の下までむし歯が進んでいます。

このような状態の歯をちゃんと残す方法は三つしかありません。エキストリュージョン外科的廷出クラウンレングスニングです。クラウンレングスニングは前歯部にはあまり使えません。歯肉が下がるので見た目が不自然になってしまうからです。下の写真(刺激が強いのでモノクロに変換)のように全体の歯肉を下げる場合には使えるのですがこれは今回のケースとは目的が違います。

外科的廷出後にファイバーポストを入れて形成した状態。全周にフェルールが充分確保された理想的な状態です。術後二ヶ月です。以前はもっと長い期間をおいて安定を待って補綴していましたが、必要無いと思うようになりました。ある程度歯肉が安定したら積極的に咬合させるべきだと最近は考えています。

まだ少し動揺があります。動揺が無い方がしっかりしていて良いように思われるかも知れませんが、それはアンキローシスという良くない方向に進んでいる可能性が高いのです。そうなってしまうと歯根吸収が起きてしまいます。

セレックで補綴の治療費を抑えられれば、治療費はトータルで15万円程度です。勿論どんな歯でもこの手法で残せるということではありません。

エキストリュージョン

外科的廷出ではなく、矯正力で歯を引き上げる方法もあります。
エキストリュージョンといいます。
部位と引き上げる長さによって両方を使い分けています。

若い頃、二年ほど東京に通って矯正を学びましたが、今は矯正はすべて専門医に紹介しています。餅は餅屋です。エキストリュージョンも矯正といえば矯正なのですが、歯並びを治療するのではなく、歯を保存するためのものなので守備範囲です。

外科的廷出術

歯根破折のため補綴物が脱離してしまったので、抜歯してインプラントを奨められたけれど、どうでしょう? と来院されました。骨縁下まで達する破折なのでインプラントの選択は妥当だと思いますが、レントゲンを見るとこれを抜歯するのはもったいないと思ってしまう貧乏性な私。

 

抜歯の時に歯根が割れる可能性があり、そうなってしまったら諦めてインプラントにしましょうと説明して外科的廷出を提案しました。一度抜歯して浅く戻して破折部分を歯肉の上に出す術式です。
歯内療法にはどうしても治らない根尖病変への最後の手段として意図的再植術という方法があるのですが、その場合は抜歯して根尖の病変をカットして戻します。この症例では根尖に病変はありませんからその必要はありません。

通常の抜歯の何倍も時間を掛けて抜きます。無理な力を掛けて破折したら終わりです。また、歯根膜を可及的に残すことが非常に重要なので、極力そこを傷つけないようにしなければなりません。

 

30分位で上手く抜けました。抜いた後、戻すまでの時間はある論文で18分以内が良いとされています。この症例の場合、根管の処理をしないので時間的には余裕があります。

抜いてそのまま元に戻すとまた同じ位置になってしまって、破折部位が歯肉の上にきませんから、180度回転させて浅く戻します。

それでも陥没してしまいそうだったので、ごく簡単に固定しました。脱落の心配が無ければ強固な固定はやってはいけません。緩い方が良いのです。

 

 

歯根の半分ほどの位置での破折だったので、ここまで持ち上げました。バイアスのかからない説明をちゃんとした後で、どちらを選ぶかは患者さん次第です。バイアスのかからない説明とは意外に難しいもので、もちろんインプラントの経営的なメリット等は除外して患者利益だけを優先しなければなりません。ですがインプラントより治療費が安いということをインセンティブにするのもまた誤りです。
いちばん困るのが自分で治療方針を決めて来院されること。これは引き受けません。もう一つ困るのが「先生の良いようにやって」と丸投げする方。私の良いようにやると家が一軒建ちますよと脅します(^^;)。