外科的廷出術

歯根破折のため補綴物が脱離してしまったので、抜歯してインプラントを奨められたけれど、どうでしょう? と来院されました。骨縁下まで達する破折なのでインプラントの選択は妥当だと思いますが、レントゲンを見るとこれを抜歯するのはもったいないと思ってしまう貧乏性な私。

 

抜歯の時に歯根が割れる可能性があり、そうなってしまったら諦めてインプラントにしましょうと説明して外科的廷出を提案しました。一度抜歯して浅く戻して破折部分を歯肉の上に出す術式です。
歯内療法にはどうしても治らない根尖病変への最後の手段として意図的再植術という方法があるのですが、その場合は抜歯して根尖の病変をカットして戻します。この症例では根尖に病変はありませんからその必要はありません。

通常の抜歯の何倍も時間を掛けて抜きます。無理な力を掛けて破折したら終わりです。また、歯根膜を可及的に残すことが非常に重要なので、極力そこを傷つけないようにしなければなりません。

 

30分位で上手く抜けました。抜いた後、戻すまでの時間はある論文で18分以内が良いとされています。この症例の場合、根管の処理をしないので時間的には余裕があります。

抜いてそのまま元に戻すとまた同じ位置になってしまって、破折部位が歯肉の上にきませんから、180度回転させて浅く戻します。

それでも陥没してしまいそうだったので、ごく簡単に固定しました。脱落の心配が無ければ強固な固定はやってはいけません。緩い方が良いのです。

 

 

歯根の半分ほどの位置での破折だったので、ここまで持ち上げました。バイアスのかからない説明をちゃんとした後で、どちらを選ぶかは患者さん次第です。バイアスのかからない説明とは意外に難しいもので、もちろんインプラントの経営的なメリット等は除外して患者利益だけを優先しなければなりません。ですがインプラントより治療費が安いということをインセンティブにするのもまた誤りです。
いちばん困るのが自分で治療方針を決めて来院されること。これは引き受けません。もう一つ困るのが「先生の良いようにやって」と丸投げする方。私の良いようにやると家が一軒建ちますよと脅します(^^;)。