アナログ印象・デジタル印象

アナログ印象というのは従来の粘土のようなもので型を採ることです。粘土のようなものを印象材というのですが、シリコンがベストです。マストです。

印象の際に歯肉の下の部分を確実に型取りするために行うのが圧排という作業です。下のイラストの青い部分が圧排コードです。これを入れてこの部分を広げて印象材を注入します。詳しくはこの辺を参照してください。実は印象材の違いによる寸法精度の差は大きくないのですが、寒天印象材は簡単に千切れるので上の写真のような印象は不可能なのです。

こういったところでもマイクロスコープは活躍します。動画はダブルコードテクニックというのですが、細い糸を一本入れてその後太い糸を入れ、印象材を流すときに太い糸だけ取り除きます。

一方、デジタル印象というのは印象材を使わずに特殊なカメラで撮影して3次元データを採得する方法です。当院には以前からセレックという機材がありますがこれもデジタル印象です。下の写真がカメラ部分です。

カメラで撮影するわけですから見える部分しか印象できません。アナログは見えないところにも入り込むので私はデジタルよりアナログに優位性があると思っています。ですので当院ではセレックを使う場面でもアナログ印象を行って模型にしたものをデジタル撮影するという手法を採っています。

上の写真。この羽をもがれた鳥のオブジェのようなモノがこの度当院にやってきたTriosというカメラ(スキャナー)です。主目的は患者さんへの説明とコミュニケーション、そして治療のシミュレーションです。全てを見える化していくということが私の目標でその最終段階にあたってこれが必要だったのです。

しかしどんなに技術が進歩しても見えない限り写らないのは変わりようがありません。古典物理学下での作業ですから光は曲がってはくれません。歯肉の下はよく見えない=撮れないと思っているのでデジタル印象にはあまり期待していませんでした。

ところが上の動画を編集していてはたと気づいたのです。マイクロスコープで見えれば、あるいはマイクロスコープで見えるようにすれば、カメラでも写るのです。つまりIOS(イントラオーラルスキャナー、このカメラのことです)もマイクロスコープも光学機器だということです。
当たり前なんですがこの認識で一気に可能性が広がったような気がします。頭の中だけで考えている段階ですが、以前と違って少なくともデジタル印象を少し肯定的に考えることができるようにはなりました。マイクロスコピックデジタルデンティストリーと名付けようと思います。ググってみましたが出てきません。商標とれないかな(汗)。

診断が難しかった下顎7番の歯髄壊死(その2)

このケースの続きです。

CTは通常の二次元のレントゲンに比べて優位に病変を発見できるというエビデンスがあります。レントゲンに関しては抑制的すぎるのは寧ろ患者利益を損なう恐れもあると考えます。今後は再治療においてはルーティンとしてCTを撮るということも考えています。下の図は被曝量を示したものです。福島の原発事故の頃はかなり学んだので知識も豊富だったのですが、危険ではないという結論に至ってからは急速に興味を失いほぼ忘れました(笑)。

さて、幸いイスムスに積極的に介入し徹底的な洗浄を行ったところアブセスは消えました。根管治療において顕微鏡の使用が治療成績に優位には関係しないというペーパーがあるのですが、さりとてこのイスムスを治療するのに顕微鏡無しで挑むのは無謀だと私は思います。
MTAで根管充填して根管治療を終えましたが4回の治療回数が必要でした。

診断が難しかった下顎7番の歯髄壊死(その1)

主訴は時々痛みがある。強く痛むこともあった。ピーク時の2割くらいに痛みは軽くなっていると言うことでした。少し動揺していましたが確定診断はつかず、咬合調整をして少し経過を見させてもらっていました。冷たいものにしみると仰るので確定診断がつかなかったのです。

他の部位を先に治療していましたが、アブセスが出現したので歯髄壊死の確定診断をして治療に着手しました。コンポジットレジンを除去すると近遠心にカリエスはありましたが歯髄壊死に陥るような深いものではなく、またクラックもないので本当に壊死しているのか不安になりましたが(勿論可能性としては説明しています)歯髄腔に達したときに中が空洞だったときはホッとしました。歯髄が生きていれば出血します。

歯髄腔の近心舌側が高位に張り出していて、おそらく以前の治療で前医が髄角(歯髄の角、で解ります?(笑))に近接したのに気づかなかったためだと思われます。矢印の部分です。上のレントゲンを下の写真を見た後で読像すればそうも見えますが、なかなか読み切れません。

最小限の削除で最大の効果を得ることを心がけます。

ところが治療に反応が悪く、通常ならアブセス(膿)はすぐに消えるものなのですがなかなか消退しません。CTを撮影してみたところ思ったより大きな病変があることが解りました。

続きます