痛みの原因の歯の特定が難しかった前歯

大きな穴が空いているとか腫れているとか簡単に痛みの原因の歯を特定できることが殆どですが、それが難しいことがあります。

初診時のレントゲン。この辺りが痛い。一日に数回、数分間痛い。ご本人は真ん中に写っている差し歯だと思うとおっしゃいます。治療して20年ほど経っているとのことです。

しかしこの歯の所為だと診断するような症状ではありません。この歯ならば咬合痛があるはずです。ただ下のレントゲンで解るようにこの歯は連結されているため咬んでもらって1本1本の反応を見るという診断法方は困難です。根尖に病変は認められません。結局この日は確定診断には至りませんでした。患者さんの訴えと実際の痛みの発生部位が異なる歯痛錯誤が生じることは多々あります。この日は鎮痛剤を処方して経過を診ることにしました。鎮痛剤が効くかどうかも診断の一助になります。

数日後。痛みは強くなっています。さらに下の前歯も痛い。犬歯も小臼歯も奥歯も痛いような気がすると訴えます。放散痛という症状です。そして熱いものを食べると痛みが出るようになったそうです。歯髄炎の症状が出始めました。しかし拍動性の疼痛が続くようなことは無く夜眠れないほどの痛みというほどでもありません。ここが腑に落ちません。

急遽来院していただきました。その頃には咬むと痛いという症状も出ていました。冷たいものにしみることはありません。その日は治療をする時間は確保できなかったのですが、診断のために麻酔を打ちました。麻酔診という方法です。麻酔は数本の歯に奏効してしまうので限界はあるのですが、なるべくピンポイントで少量の麻酔薬を使い拡散する前の段階で痛みの変化を観察します。痛みは消えたので高い確率で左上の中切歯の歯髄炎と診断しました。

治療は裏側から金属に穴を開けて慎重に削っていきます。そもそもの歯の形態が人工物に置き換わっているので外形から歯髄の位置を想像することができませんから適切な位置で適切な方向と大きさで歯髄に到達するのは神経を使います(神経だけに(^^;)。

小さくピンポイントで到達した歯髄腔はもう空洞の状態でした。出血も排膿もありません。その状態からするともっとずっと前に壊死していたと思われます。訴える症状が典型的な歯髄炎のそれでは無かったのはそういうことだったのでしょう。診断が的中したとは言えませんがそれでも治療すべき歯が間違っていなかったのでホッとしました。ただどうしてこのタイミングで痛みが出たのかは分かりませんでした。下のレントゲンは根管内にリーマーを入れて確認しているところです。歯の真ん中辺りにうっすらと黒っぽく見えるのが裏から金属に穴を開けたところです。クランプが写っていないのでラバーダムをしていないように見えますが、そんなことは勿論ありません。下の動画を見てください。

根充後のレントゲン。この段階になって根尖に透過像のようなものが現れています。上のレントゲンから数日しか経っていないのでこれも不思議です。不快症状はほぼ消えています。

通常なら一回の治療で全てを終わらせますが、このケースでは少し慎重になりました。後日、患者さんからわざわざ新年のご挨拶と共に良好な経過のご報告がありました。
めでたしめでたし(正月だけに(^^;)。

年末年始の診療について

今年ももう一週間を残すだけになりました。上の画像は今年勉強し始めた新しいテクニックで前歯を治療したケース。この模型が象徴的です。治療期間は長くなってしまいますが概ね治療には満足していただけたのではないかと思っております。

当院の今年の診療は28日の火曜まで、来年の診療は7日の金曜からとなります。当院に通院中の患者さんで休診中にトラブルがあった場合は、お知らせしてある私のプライベートの番号までご連絡ください。ただし酔っ払っていたら緊急対応は無理です😅

いわき市歯科医師会では休日救急歯科診療所を開設しております。お困りの際はご利用ください。なお大晦日は大変混み合いますのでご注意ください。

ウオーキングブリーチ(変色歯の漂白)

ずいぶん前にぶつけて神経が死んでしまってその後だんだん色が変わってしまったというケースです。こういう場合は安易にセラミックで被せるという治療法を選んでしまうのはお奨めしません。神経の治療をした際に裏から開けた穴から再度アプローチし漂白を行います。これをウオーキングブリーチといいます。ホワイトニングとは全く違う方法です。下の画像は一週間ごとの変化です。一枚目が着手前ですから3週間でここまで回復したわけです。

大事なのは漂白の際に従来使われていた過酸化水素水を使わないことです。これを使うと歯根が溶けてなくなってしまう可能性があります。何年か前にShimon Friedman先生の講義で教わりました。ウオーキングブリーチでネットで検索すると残念ながら今でも間違った方法が書かれていることが多いです。

まず裏側に詰めてあるレジンを除去します。これが苦労します。歯とレジンの境界が解りづらいからです。レジンを取り切らないと薬効が期待できませんからこれは重要です。下図の黒い部分にレジンが詰まっていましたが、本来ならこの半分以下の削除で神経の治療は可能です。こういった見えない部分が歯の寿命を左右します。

動画です。内部のセメントや取り残した歯髄、そして充填物を確実に取り切ることが大事です。そしてくどいようですが過酸化水素水を使わないことです。