バーティカルプレパレーションのトレーニング

歯科医師向けの記事です。一般の方はスルーしてください。

今までの標準的なクラウンの形成は、削った所と削っていないところの境界線(マージン)をいかに明確に綺麗に表現できるか。そしてそれをいかに正確に印象し模型に再現するか。それがとても重要なことでした。下の写真はその模型です。

一方、下の動画はバーティカルプレパレーションの模型での練習です。模型にはシリコンで歯肉を再現したパーツが付いているのですが練習なのでそれは外してあります。上の写真とは真逆に削った所と削っていないところの境界線を消すようにバーを動かしています。歯肉がないのでマイクロスコープ下でも明視化できていますが、実際の臨床ではマイクロスコープはほぼ無力です。歯肉がじゃまして見えないのです。さらにジンジタージュという歯肉を削るような事も同時に行うので当然出血して、血液がさらに細部を見えなくします。

デジタルデンティストリーやマイクロスコピックデンティストリーは革新的ではありますが、所詮手段です。しかしこれは革命的とまでは言いませんが、従来の形成や技工の考え方をリセットしなければなりません。何十年もの間、手にしみこんだ方法をリセットするには理論を頭で理解するしかありません。

なお、これはB.O.P.T.ではありません。B.O.P.T.はプレパレーションテクニックではありません。B.O.P.T.について本格的に学びたい方はB.O.P.T.Japanの公式サイトを見てください。

ステップワイズエキスカベーション

深いむし歯を神経を抜かずに治療しました。むし歯を完全に削り取って露出した神経を保存するという方法もあるし、神経には極力触らずになんとかするという治療法もあります。非侵襲性歯髄覆罩とかステップワイズエキスカベーションとか呼ばれる後者のこの方法は、歯髄に近い軟化象牙質(むし歯)を取り切らずに薬剤を置いて軟化象牙質の硬化を期待するという治療法です。この方法にも欠点はありリエントリーと言って、数ヶ月後に再度詰め物を削り取って硬化していない象牙質を除去しなければなりません。その際に結局神経まで達してしまう可能性もあり、リエントリーの後には更に修復治療をする必要があります。

根管治療は難しいのでできることなら歯髄に触りたくないという意識が私の根底にあるので、抜随(神経を抜く)治療はなんとか避けたいのです。ですので、このところこのようなモラトリアム状態の歯を何本も抱えています。もちろん時間は掛かってしまいますが患者利益になると思っています。

そんな面倒くさいことをするんならスパッと神経抜いちゃってくんな、こちとら気が短けぇんだよべらぼうめ! と考える江戸っ子には向いてない方法ですね(笑)。

 

神経を抜いてから痛みが消えない

神経を抜いたら、それ以来痛みが引かない。当院の根管治療希望の患者さんは大抵このパターンです。どんなときでも重要なのは診査診断です。どうして痛いのか? 痛みの原因は本当に歯にあるのか? そこが解らなければ治療のしようがありません。問診は原因を探る大きなヒントになりますから時間を掛けて行います。

レントゲンです。ラバーダム無しの抜随だそうですし仮封(フタ)もプアなので感染はしているのでしょうが、病変は認められず歯根膜腔も正常範囲にあるように見えます。

とまあ、死ぬほど長文なブログになってしまいそうなのでちゃちゃっと端折りますが、根管は上顎小臼歯に多い2根管口で根尖方向で繋がっているタイプで、その上部のイスムスに壊死した歯髄が残っており、根尖部は解剖学的形態が壊れていました。歯冠部の歯質は殆どなくなっており根管も大きく拡大されています。長期にわたる根管治療ではありがちですが治療の度に拡大するとこうなってしまいます。当院での切削はこのイスムスを拡大しただけで、メインで行ったのは徹底した根管洗浄です。貼薬剤が刺激になって歯根膜に炎症を起こして痛みが出ている可能性があるので根管貼薬は一切行っていません。

一回目の治療は感染歯質の除去と隔壁作り。二回目で根管内を綺麗にして三回目でMTAで根管充填しました。慢性痛に移行しているのですぐに痛みが引くということはないと思います。歯冠方向からの感染を防ぐ為にこの後レジンコアを入れて経過観察に移行しました。やれることはやったので、後は患者さんの痛みに寄り添っていきます。良くなりますように・・・

結果はこちら。