デジタル印象が可能なとき

歯肉縁下に形成が及んだ場合はデジタルは難しいと、ことあるごとに書いてきましたが、時には可能なこともあります。圧排糸で歯肉が少し下がってくれて形成限界がどの方向からも(横からでも縦からでも)見える場合にはデジタルだけで印象します。見えているわけですから圧排糸を抜かないで印象します。どの方向からも見えるというのが重要なんじゃないかと私は思っていて、現在のIOSはワンショットで撮っているわけではないので画像の合成をしていますから、情報の連続性が重要なのではないかと勝手に考えているのです。AIがそこをカバーしてはいるのでしょうが理想的には大きな情報量の連続があった方が良いに決まっています。

うちのご老体のCERECですと、なるべく少ないスキャンの枚数で3Dデータを構築するのが理想とされていたため、模型スキャンの際に模型にポイントを彫刻したりしていました。そこをデータの合成の基準点として認識させていたわけです。因みに口の中の直接スキャンは一切行っていませんでした。

デジタルは術者の稚拙な技術をカバーしてはくれません。むしろ術者がデジタルをカバーしなければならないのです。

アナログ印象

デジタルで印象できるケースはアナログでも印象できますが、アナログでできる印象が全てデジタルでできるということはありません。デジタルは写真のようなものなので歯肉の下の(歯肉縁下といいます)印象は苦手です。いろいろ工夫してやる方法もありますがそんな苦労をするよりシリコンでアナログ印象した方が確実です。と、現時点では思っています。手段の目的化はしません。どちらでも印象が可能ならデジタルを使います。効率が良いからです。

同じ歯肉圧排からの印象。上の画像は本気で採ろうと思ってデジタル印象したわけではないのですが、これでは使い物にはなりません。下がアナログ印象です。エッジが立った良い印象だと思います。

バーティカルプレパレーションのトレーニング

歯科医師向けの記事です。一般の方はスルーしてください。

今までの標準的なクラウンの形成は、削った所と削っていないところの境界線(マージン)をいかに明確に綺麗に表現できるか。そしてそれをいかに正確に印象し模型に再現するか。それがとても重要なことでした。下の写真はその模型です。

一方、下の動画はバーティカルプレパレーションの模型での練習です。模型にはシリコンで歯肉を再現したパーツが付いているのですが練習なのでそれは外してあります。上の写真とは真逆に削った所と削っていないところの境界線を消すようにバーを動かしています。歯肉がないのでマイクロスコープ下でも明視化できていますが、実際の臨床ではマイクロスコープはほぼ無力です。歯肉がじゃまして見えないのです。さらにジンジタージュという歯肉を削るような事も同時に行うので当然出血して、血液がさらに細部を見えなくします。

デジタルデンティストリーやマイクロスコピックデンティストリーは革新的ではありますが、所詮手段です。しかしこれは革命的とまでは言いませんが、従来の形成や技工の考え方をリセットしなければなりません。何十年もの間、手にしみこんだ方法をリセットするには理論を頭で理解するしかありません。

なお、これはB.O.P.T.ではありません。B.O.P.T.はプレパレーションテクニックではありません。B.O.P.T.について本格的に学びたい方はB.O.P.T.Japanの公式サイトを見てください。