抜髄

上顎6番のむし歯の治療。

赤い部分がむし歯。青い部分は充填が行われています。

むし歯の部分。

むし歯を概ね削り取ったところ。

神経が透けて見えています。まだ完全にはむし歯の除去は終わっていません。神経は残せるものなら残すというのは当たり前のことです。上の方だけ除去して根の方の神経を残すということも今では特別な治療ではありません。しかしこのケースのように健全な歯質の量が極端に少なく、しかも歯肉の下まで感染歯質が広がっていた場合は折れてしまったり封鎖の問題だったりいろいろなリスクを抱え込むことになります。一方、イニシャルエンド(その歯にとって初めての歯内療法)の成功率は非常に高く、残り少ない歯質を残すより全体を被せた方が長持ちすることはあると考えます。神経の保存が最優先では無くて歯そのものの長期安定が大切なわけです。

歯肉を電気メスで切除して隔壁を築いてラバーダムを装着しました。

さらにむし歯の除去を続けると神経が露出しました。出血が殆ど無くかなり狭窄しており抜髄(神経を抜く)を選択。ここまでが時間が掛かります。治療開始前にそういった治療になる可能性についての説明は充分にしておかなければなりません。

散々いじり回された根管に比べて治療は簡単です。根尖に器具を到達させる(穿通 パテンシー)までは5分もあれば終わります。そこに至るまでが60分程度でした。

 

根管内吸引洗浄

このケースの続きです。

唐突ですが、根管の中をくまなく綺麗にするのはファイルだけでは不可能です。根管はストローのように丸くはないので断面が丸いファイルでは触れない部分が出てくるのです。触っていなければ機械的に綺麗にすることは当然できません。下の写真のようなファイルもあります。使い古して曲がってしまっているわけではないんですよ。らせん状なのでストレートな形状に比べ、より根管内壁に触れることが可能になります。最近のアメリカの歯内療法専門誌にはこれを3000回転/分で回すと成績が良いと書いてあります。

それでも研究によると(詳しい数字は忘れましたが)この形状のファイルでもビックリするほど効果があるとはいえないのです。

そこで薬液による洗浄が重要になってきます。世界標準で使われている薬液はNaOCl、次亜塩素酸ナトリウムです。殺菌と有機質溶解作用があります。口の中にこぼれると危ないのでラバーダム無しでは使えません。

注射器のような器具で洗浄液を根管の中に注入するのですが、それだけでは実際には上部にしか液は届きません。かといって闇雲に強い圧を加えると、今度は根尖から漏れ出して重篤な事故を起こします。それを解消するために様々な器具や方法があります。臨床ではいろいろな方法を組み合わせて用いることでそれぞれの欠点を補うことが推奨されています。

比較的大きく拡大された根管では吸引する針を根尖近くに置いて、上部から薬液を注入するという方法が使えます。根管内吸引洗浄(intracanal aspiration technique)といいます。専用の器具もあるのですが高くて買えません(汗)。動画を貼っておきますが原理はごく簡単です。

通常の洗浄針は細い物で27Gという規格です。太さ0.27ミリです。ファイルだと30号が0.3ミリなので最低でもそこまで拡大する必要があります。ですが実際に使ってみるとそのハリの太さでは、吸引してもすぐにカスで詰まってしまうのです。30Gでも詰まります。ですから私は細い根管で使うのはちょっと難しいなと感じています。あくまでも私の場合です。

下の写真のシリンジの先が27Gの針です。

さて今回のケース。下の動画に映っている透明のチューブが吸引側です。このくらいの太さがあればストレス無く吸ってくれるのですが、太いので根尖のすぐ近くまでは到達していません。ですがその前段階で使っている音が出る洗浄機はしっかり根尖近くまで届いています。

 

根管を拡大するのは洗浄の効率を上げるためだと言われるほど、根管洗浄は重要です。感染根管は汚れちまった悲しみなのです。なすところあり日はのぼる。

上顎小臼歯の抜髄・根充

抜髄、つまり神経をぬく治療ですが極力避けるようにしている所為もあり、本当に少ないです。当院での根の治療は殆どが再治療です。神経をぬいた歯のトラブルです。

どうして神経をぬいた歯にトラブルが出るのか? それは感染です。根の中にばい菌が入ってしまうからです。ばい菌が入ってしまう理由はいろいろありますが神経をぬいた後の仮の蓋に隙間があって侵入してしまうというパターンが多いのです。

この状態でむし歯を削ると横に大きな穴が開きます。ここから細菌が入ってきます。

それを防ぐためにこの赤い部分にコンポジットレジンで壁を作るのです。これを隔壁と言います。非常に重要です。下の写真は根管充填後のレントゲンですが、隔壁が写っているのが解ると思います。根の中にクスリがどう入っているかとかはあまり重要ではありません。

ちゃんと隔壁を作ってラバーダム下で抜髄を行えば、それだけで治療の成功は殆ど約束されます。マイクロスコープとかニッケルチタンファイルとかCTとかは、そういった基本が守られていなければ全く何の意味もありません。

こういった歯内療法の基本的なことが全ての歯科医院で守られるようになると、再根管治療のニーズは格段に下がると思われます。そうなると当院のような歯科医院の存在の意義もあまり無くなるので、これは実は内緒にしておきたい情報なのです(汗)。