再根管治療して一年後

全ての根管治療が成功するわけではありません。このケースの一年後です。

初診時には膿がたまって腫れており痛みもありました。前医では抜歯宣告をされて来院されました。CT画像です。

治療に着手すると近心根(上の画像の左側の根)にはパーフォレーションがあり、遠心根にはヒビが見つかりました。抜歯の選択も説明し、痛みや腫れが取れても長期に安定した状態をキープするのは難しいこともお話ししました。意思決定は患者さんが行います。結果的には歯を残すことを希望されました。

MTAで根充後の画像です。

経過は良好だったのですが約1年後に再発しました。

レントゲンです。コーンカットはお見逃しを(汗)

根尖の病変はまだ残っていますが大分回復方向にあったように見えます。しかしおそらく近心根が割れています。前回の治療でもかなり厳しい状態だったのですからこれをまた再治療する価値はありませんし、私が出来ることはやり尽くしているのでもう一度アプローチしても改善する見込みはありません。したがって私にはこの歯を救う手段は無く抜歯が妥当だとお伝えしました。痛みはそれ程強くは無いので少し考えてみるとのことでした。

治療に入る前には、最善は尽くすけれど成功を保証することは出来ないこと。歯内療法自体が成功してもそれと歯が長期に保存出来るかどうかは別であることなどは説明していますが、それでも術者としてはずっと長持ちしてくれることを祈りながら治療を終えるのです。
最後に「こうなってしまってこの治療をしたことを後悔していますか?」と訊いてみると、そんなことはないと答えてくださいました。

予測のできないことや限界はあるにせよ、患者利益を最優先に自分にできる最善の治療をするということを続けていくしかありません。殆どのケースで経過は良好なのですから。

根管充填後の硬化したMTA

硬化したMTAはハイドロキシアパタイトの中間層を介して象牙質と強固に接着します。それ自身もかなりの硬さを持ちます。長期間にわたり殺菌性を持ちます。欠点は取り扱いが難しいことと高価なことです。

スクリューポストを効率よく除去する

スクリューポストという根管の中に入れる心棒のような物があります。絶滅危惧種だと思います。上の画像のネジのようなモノがそれです。再根管治療をするにはこれを除去しなければなりません。

下の写真が今回のケース。見づらいですが中央付近にネジが入っています。左向きに湾曲している白いモノはサイナストラクトに挿入して原因の場所を探っているガッタパーチャです。ここに書いておきました。

根管内の人工物の除去は歯内療法には必ずと云って良いほど付き纏ってくる作業です。最も難しいのは破折ファイルです。スクリューポストの除去は難易度はそれ程高くはありません。とはいえ歯を削らずにピンだけ抜き取るにはそれなりのテクニックが必要です。

おそらくこの歯の根管治療はすでに二回行われていて、一回目で神経を抜いてスクリューポストを入れてクラウンを被せ、その後に再根管治療が行われていたようです。その際に行われた根管治療は近心根のみでスクリューポストは除去を断念していたようです。治療後は接着性の無いセメントで埋められていました。この類いのセメントは超音波チップではじき飛ばせるので楽です。スクリューポストはレジンで埋め込まれていましたが、これも専用のチップを当てて上手く除去することができました。