歯冠破折による歯髄炎

対応に頭を悩ます原因の特定の難しい痛み。
右下の7番の痛みが主訴でした。
結果的には7番のクラックによる歯髄炎でした。簡単に診断が付く場合が殆どですが、この症例では症状が固定せず、また色々な検査をしてみても確定診断に至らず苦労した症例でした。診断が付かない場合は後戻りできない歯科治療を行うべきではありません。非歯原性歯痛というものもあり、その場合は抜髄しても抜歯しても痛みは消えません。そうなっては患者にとっても歯科医師にとっても不幸です。

 


深いむし歯はありません。クラックはあります。歯髄は生きています。冷水痛や咬合痛はありません。埋伏している親知らずも疑わしいので抜歯しました。抜歯後に骨がどの程度回復するのか心配でした。うまく回復してくれないと7番の予後が不良になります。しかし先送りしても結果はむしろ悪くなります。この埋伏は将来高い確率でトラブルを起こします。
しかし抜歯後も痛みは消えません。歯冠のクラックによる歯髄炎の疑いが強くなってきます。最終的な患者さんの意志決定は抜髄でした。治療をしてみると歯髄腔は空洞になっていました。歯髄壊死です。どの段階でそうなったのかは確定できませんが、少なくとも初診の段階ではそうではありませんでした。

 


すこし写真の角度が悪いのですが、根充後です。

 


術後5年ほど経過しました。親知らずの抜歯後の骨の再生はうまくいっているようです。歯根膜腔も広がっておらず、歯根破折は起きていないようです。違和感はないそうです。

 


その後暫くして、今度は反対側の6番に同じ症状が出ました。やはりクラックです。根充後のレントゲン。

 


治療終了後2年ほど経過して違和感が出たため、レントゲン撮影。再治療しても違和感を消すことは難しいと説明し経過観察です。因みにこちらの親知らずは完全に骨に覆われているので、トラブルの確率は低いです。

 


5年後。やはり時々違和感はあるそうですが、生活に支障のあるほどではないということでした。患者さんもこの歯の状態を完全に把握していますから、私と一緒に治療に参加しているような感覚があります。患者さんとこういう関係が構築できれば、治療は難しくてもチャレンジできます。治療の成功の確率が治療方針決定のバイアスにならないのです。多くの場合、それは良い結果をもたらします。

なお、歯根破折を避けるために、根管拡大は最小限にとどめています。根尖に透過像(病変)は全くありません。ルーチンとしてマイクロスコープを使用して治療していますが、結果論ですがこのような症例では使用しなくてもおそらく治療結果に影響はありません。湾曲しているし拡大も最小限なので、根管の中は入り口から半分程度までしか見えません。

慢性増殖性歯髄炎

慢性増殖性歯髄炎の症例です。ムシ歯が進んで歯髄に達した場合、殆どは歯髄が壊死して感染根管となるのですが、若年者で歯髄の生活力が旺盛な場合には壊死せず増殖してポリープを形成することがあります。通常自発痛はありません。
写真のように歯冠が崩壊していると、通常は歯の根まで腐って柔らかくなって(軟化象牙質)保存不能になる場合が多いのですが、生活歯髄の場合はそうはなりません。

除去したポリープ。これが歯根部歯髄と繋がっています。歯肉とは繋がっていません。

歯髄の活性が高いので根尖側の歯髄は保存することも可能なのかも知れませんが、それが可能だとして問題はその後の補綴です。歯冠の歯質が殆どありませんから普通に被せても維持がありません。簡単に外れてしまいます。そういうわけで抜髄してクラウンにすることにしました。



術前

根充後。4根管でした。

 

ガッタパーチャ

根の中に写っている白い不透過像がガッタパーチャという根管充填剤です。

除去しました。真っ黒になっています。そして臭います。ガッタパーチャを根管内から完全に除去するのは実は大変難しいのですが、こういったプアな根充だと簡単に取ることができます。
感染根管治療は実は前医があまり上手じゃない方がやりやすいのです。