生活歯の破折



上顎4番の歯冠破折。


隣接面(歯と歯の間)のむし歯の治療の跡があります。この治療の際にフルクラウン(全体を削って被せる)を選んでいれば破折は防げたのかも知れません。最小の削除とは正反対の治療法です。
隣接面のむし歯は患者さんは気づいていないことが殆どです。それをガリガリ削って被せるわけですから、治療法に同意する方は少ないでしょうね。私も今のところ積極的に奨めるということはしません。但しクラックがある歯の場合は全く話が変わってきます。この症例はクラックがあり、他の歯の歯冠破折の既往がある患者さんに行ったものです。

歯根破折


治療後6年経過。
歯肉の状態も良く審美的にも満足できる状態だったのですが、脱離して来院されました。
残念ですが歯根が破折していました。フィステルができています。
応急的に再装着しましたが、抜歯するしかありません。


セット時です。歯肉のレベルは上の写真と比べて殆ど変化していません。むしろ左右の対称性は6年後の方が増しています。


術前。すでに削ってしまってあった歯の再治療でした。歯の強度は削除量が大きいほど落ちてしまいます。神経を抜く場合でも最小限の削除にとどめることが、その歯の寿命を延ばすことになります。神経を抜くと歯が脆くなると良く言いますが(勿論神経が残っていた方が良いのです)その最大の要因は必要以上に切削するからです。

歯根破折とサイナストラクト(フィステル)


歯根破折が疑わしいレントゲン写真。歯根全体を取り囲むような透過像は大抵破折しています。


この歯です。青丸の中がサイナストラクト(フィステル)。歯根破折の場合、サイナストラクトは比較的歯冠寄りに出現します。なお出血している部分は麻酔注射によるものです。

しかしこれらのことだけでは破折の確定診断はつきません。破折線の確認が必要です。レントゲンではっきり解ったり、目視で確認できればいいのですが、この症例ではクラウンを外して、スクリューピン(ネジのようなもの)を外して、根充材をある程度除去してやっと破折線が確認できました。その日の治療は30分程度でした。なお、根管内の破折を確認するにはマイクロスコープは私には必須です。


抜歯の際に更に破折したので、なんとなく破折線は見えますが、染色することによってはっきりと見えるようになります。


メチレンブルー染色。横に走る細い線が破折線です。サンプルのために、これは抜歯してから染色しています。抜歯後、説明のために染色して見せることは偶にありますが、治療そのものには関係のない行為です。臨床では口の中で染色します。

次の予約で抜歯しました。いちばん上の写真は抜歯当日のものです。抜歯に要した時間は5分程度です。遠回りの治療になってしまいますが、破折していなければ保存可能ですから必要なステップです。もちろん最初の段階で患者さんが抜歯の意思決定をされれば回り道はしません。
保存できない歯を残すのも、保存できる歯を抜歯するのもどちらも間違いです。重要なのは患者さんの意思決定をサポートすることです。

意思決定(いしけってい、英: decision making)は、人や団体が特定の目標を達成するために、ある状況において複数の代替案から、最善の解を求めようとする人間の認知的行為である。