症状を再現できなかった感染根管の治療

上顎の犬歯に違和感があるとの主訴。その違和感を再現できません。例えば冷たいものに染みるという主訴があれば、その歯に冷たい刺激を与えたときに染みなければならないのです。
さて、神経を抜いた歯が痛むのは歯の周囲を取り囲む歯根膜という組織にあるAβ(エーベータ)という神経繊維の終末の興奮です。その場合、歯をノックしたときに反応が出るはずなのですがそれがありません。この場合は非歯原生疼痛の可能性があります。つまり歯を治療しても違和感を消すことができない可能性があるのです。

しかしCT像には根尖病変が大きくはありませんが写っています。これが今後大きくなっていく可能性はあります。というわけで患者さんの意思決定により、違和感は消せない可能性が高いけれど根尖病変の治療という目的で着手することになりました。なお根尖病変が有れば必ず歯が痛いわけではありません。慢性根尖性歯周炎では症状が無いことが多いです。

診断はとても重要です。何が痛みの原因になっているのかのかが解らなければ治しようが無いのです。

ところで最近、このブログの表示が遅くなってしまっているので、YouTubeの動画を貼り付けるのをやめてみます。ご覧になりたい方は下の画像かこちらをクリックしてください。

大きな病変・歯髄結石・樋状根・サイナストラクトがある大臼歯の感染根管治療

下顎第二大臼歯に現れる樋状根。その形からCシェイプと言います。この形態を持った歯は一般的な機材を使った根管治療は不可能です。できれば歯内療法に特化した歯科医院の受診をお奨めします。

さてCT像です。一番上の画像がアキシャル、つまり下から覗き込んだ像です。Cの形です。
根の先の黒く抜けている部位が病変です。大きいです。一年経過でここまで治りました。

この歯は深いむし歯があるわけではないのに歯髄が壊死してしまっていました。

金属を除去し歯髄腔に達すると歯髄結石がありました。

黒い縦の線はヒビ(クラック)です。ここから感染して歯髄が壊死したのだと思われます。こうしてサイナストラクトがあり病変が確認できれば診断は難しくは無いのですが、クラックによる歯髄炎は診断が難しいです。幸いこのクラックは歯根には達していないようなのでこの歯は保存することにしました。

一回目の治療終了時。膿の出口(サイナストラクト)があります。

樋状根は大抵はこんな形です。根管は管ではなく溝のような感じ。ここを削りすぎずに綺麗にしていくのですが切削の殆どは超音波チップを使います。そして治療時間の半分は洗浄です。

根管充填はMTAで行いました。私にやれることはやりきっているのでこれで治癒しなければ次は最後の手段の外科的歯内療法に移行します。この歯には意図的再植術(Intentional Replantation)という、一度抜いて口の外でこの歯の問題部位を処置して元に戻すという方法を採ります。テクニック的には通常の根管治療の方が難しいです。

神経を抜く 抜髄

年に数回の抜髄。神経を抜く治療です。歯髄保存療法という神経を残す治療もありますが、痛みなどの症状があった場合には神経を抜くのが安全だと考えています。神経を抜くこと自体が歯の寿命を大きく左右するとは思っていません。過度に削ったり感染させたり不適合な修復物を入れる方がずっと問題です。とはいえ当院は神経は滅多に抜きませんから誤解無きよう。

このケース。抜髄が特に難しい歯では無いのですが、とにかく口が小さくて機材が入りません。顕微鏡治療を身につけると見えないところを削ることが怖くてできなくなります。じゃあ普通の歯科医師は見えないのに削ってるのかと思うでしょうがそうなんです。私もそうでしたから。

この歯のイニシャルトリートメント、つまり最初の根管治療を失敗するとなかなか大変だと思います。大切なのはとにかく細菌を根管の中に入れないこと。
再根管治療(リトリートメント)はイニシャルよりずっと難しいのにこの開口量では更にハードルがあがります。ですから一回めで仕留めることが効率が良いのです。動画だとスムーズに治療しているように見えるかと思いますが、実はドリルを根管に入れるだけでも悪戦苦闘しています。

下の画像をクリックすると木田歯科医院のYouTubeの動画をご覧になれます。