フェネストレーション

正常な歯は図のように歯根全体が骨に埋まっています。

ところが根尖が図のように骨から飛び出ていることがあります。病気ではありません。これをフェネストレーションと言います。

それ自体は問題ないのですが、この歯に根管治療を施すと、違和感がある、噛めない、痛い、等の不快症状が消えないことがあります。

そうなってしまった場合は通常の歯内療法では治りません。歯根端切除術で骨の外に出ている部分を切除するしかありません。

外科的歯内療法は通常は治らない病変に対して行われる処置ですが、これはそれとは目的が少し違っています。ただし、術式は同じです。動画だと大変な処置のように見えるかも知れませんが、写っている骨の穴の直径は5mm程度です。術後に腫れるようなことも殆どありません。マイクロスコープを使用した外科的歯内療法(マイクロエンドサージェリー)の成功率は90%以上とされています。

フェネストレーションが原因で難治性根尖性歯周炎と診断された症例に対する処置:日本歯科保存学雑誌 / 55 巻 (2012) 1 号

ガッタパーチャ除去

このケースの続編です。

スクリューポストを除去した後、ガッタパーチャを除去します。
日常的に行われている治療ですが、完全に除去するのは大変です。想像ですが、おそらく多くの場合、完全には除去できていないと思います。

動画の終わりの方に出てくる、グニャグニャに曲がったファイルはXPエンドフィニッシャーという製品ですが、最近になってやっと使えるようになりました。というより使いたくなったので使っています。

この治療の後、違和感は完全に消失したとのことです。

ポイント試適。オーバーは良くありません。

根充後

ケースによって治療費は変わりますが、この根管治療(ポストの除去から根管充填まで)で10万円程度です。混合診療は認められませんから、根管治療を保険外で行うとそれ以降の被せたり詰めたりする治療も保険外になります。保険請求すると違法になります。今回は裏から詰めるだけの簡単な処置でしたので無料で修復しました。

根尖病変とCBCT

根尖病変の診断にはCTによる画像診断が、そのほかの撮影方法に比べて正確だという論文があります(Lemagnerら 2015)。まあ、当たり前と言えば当たり前なのですが、これは通常のレントゲン撮影では写らない病変があるということを示唆しているとも読み取ることができます。特に下顎のように厚い皮質骨に覆われていると、病変はそれにカバーされてしまって全く確認できないことがあります。

このケースは左上顎7番の腫脹と動揺と痛みが主訴でした。特にむし歯は確認できず、動揺度2度でポケットは7ミリを超えているので、歯周病の急性発作だと思ってデンタルレントゲンを撮影します。

根尖に透過像が見えますが、インレイ(白く写っている部分)の下にむし歯は見えず、この時点では根尖病変かどうかは、半信半疑でした。これとは関係ありませんが、デンタルレントゲンにはバーンアウトとかマッハ効果などと呼ばれるの虚像のようなものが写り込むことがあるということも知っておかなければなりません。病変じゃないのに病変のように写ることがあるということです。

さて、エチルクロライドで冷反応を診るとバイタルサインがありません。簡単に書くと、ギンギンに冷たいものを歯に押し当てても凍みません。過去に強く痛んだことは無かったかを再度問診しますが、記憶はないとのことでした。痛みの機序はAδ繊維だとかC繊維だとかの歯髄の生理学を理解する必要があるのですが、簡単に書くと、通常は神経が死ぬ時はガッツリ痛みます。

更なる情報が欲しいのでCTを撮影しました。ハッキリと大きな病変が確認できます。一目瞭然です。上顎洞粘膜の肥厚もあるようです。

赤く塗った部分が病変です。

当院のCT装置は顎全体を撮影する装置ではなく狭い範囲を撮影するものなので、被曝量は比較的少ないです。だからといってむやみに撮って良いとも思いませんが、CTデータは上のレントゲン像の軽く128倍の情報量があります(数字に根拠はありません(笑))。私は必要なら躊躇無く撮影します。それが患者利益だと考えるからです。なお、保険ではごく一部の特種な場合にしかCT撮影は認められていません。

さて、診断はエンドペリオ病変で、Simonの分類のⅡ型と思われます。確定診断はインレイを除去して歯髄を診てからになります。歯髄の失活の原因がその時に判明すると思われます。

診断にとても時間が掛かりました。次回のアポイントで意思決定があれば治療に着手します。歯科治療は多くの場合歯質の削除を伴います。後戻りはできませんから着手するに値する根拠が必要になります。したがって診断は非常に重要で、特に歯内療法においては尚更です。にもかかわらず保険では診断は全く評価されず収入は0です。良いとか悪いとかではなくそういうシステムなのです。

最後はオマケ動画です。日本歯内療法学会のCTの解説です。私も会員で学会費も払ってるので貼り付けちゃいますが、問題があったら通報して下さい(汗)。