根管拡大

根管拡大は大きい方が根管内の細菌数減少に効果があるという研究が、Journal of Endodonticsに最近掲載されました。全文を読んでいるわけではありません。アブストラクトをネットで読んでいます。

写真は根尖病変の急性化で強い疼痛が出たケースです。この症例では拡大はステンレス手用ファイルの30番までです。約3年経過で不快症状もなく、病変もほぼ治癒しているように見えます。そもそもの根管が細かったので(08のファイルでネゴシエーション)30番で充分と思ったのですが、Journal of Endodonticsに依ればもうすこし拡大しないと洗浄効果が出ないようです。簡単に書けば、そもそもの太さが針のように細かったので、素麺程度に太くすれば綺麗になるだろうと思ったけど、そうでもないらしいということです。

歯科医師になりたての頃に選んだエンドの教科書は、とにかく大きく拡大することを推奨していたので、80番まで拡大して垂直加圧で根管充填していました。でも今の方が遥かに治療成績が良いです。見栄えのする根管充填後のレントゲン写真と治療成績はそれほど相関性は高くないということです。

抜髄では細菌を根管内に入れないこと。感染根管では根管内の細菌数を可能な限り減らすこと。これだけです。

初診時

 

根充後

 

2年後

 

3年後

 

 

 

石灰化した歯髄


歯髄に達するむし歯です。痛みもありますから神経を抜きます。上顎第一大臼歯ですから通常3根です。

 


赤い線は頰側根の歯髄腔ですが、青い円の中の口蓋根の歯髄腔(神経の入っている根の中の空洞)がよく見えません。

 


抜随すると口蓋根管の中からこんな歯髄が出てきました。生活歯髄です。半分石灰化してます。堅いです。

歯髄の石灰化については諸説あるようですが、これは第三象牙質(病的第二象牙質)なのだろうと思います。専門書にはスイスチーズ様の構造を示すと書かれていますが、スイスチーズの構造を知らない(笑)。

この症例ではこれがスポッと抜けてきたので治療がやりにくくなるという程のものでもなかったのですが、これが根管内に残っていると何故か電気根管長測定器が非常に不安定になります。

 

 

歯冠破折による歯髄炎

対応に頭を悩ます原因の特定の難しい痛み。
右下の7番の痛みが主訴でした。
結果的には7番のクラックによる歯髄炎でした。簡単に診断が付く場合が殆どですが、この症例では症状が固定せず、また色々な検査をしてみても確定診断に至らず苦労した症例でした。診断が付かない場合は後戻りできない歯科治療を行うべきではありません。非歯原性歯痛というものもあり、その場合は抜髄しても抜歯しても痛みは消えません。そうなっては患者にとっても歯科医師にとっても不幸です。

 


深いむし歯はありません。クラックはあります。歯髄は生きています。冷水痛や咬合痛はありません。埋伏している親知らずも疑わしいので抜歯しました。抜歯後に骨がどの程度回復するのか心配でした。うまく回復してくれないと7番の予後が不良になります。しかし先送りしても結果はむしろ悪くなります。この埋伏は将来高い確率でトラブルを起こします。
しかし抜歯後も痛みは消えません。歯冠のクラックによる歯髄炎の疑いが強くなってきます。最終的な患者さんの意志決定は抜髄でした。治療をしてみると歯髄腔は空洞になっていました。歯髄壊死です。どの段階でそうなったのかは確定できませんが、少なくとも初診の段階ではそうではありませんでした。

 


すこし写真の角度が悪いのですが、根充後です。

 


術後5年ほど経過しました。親知らずの抜歯後の骨の再生はうまくいっているようです。歯根膜腔も広がっておらず、歯根破折は起きていないようです。違和感はないそうです。

 


その後暫くして、今度は反対側の6番に同じ症状が出ました。やはりクラックです。根充後のレントゲン。

 


治療終了後2年ほど経過して違和感が出たため、レントゲン撮影。再治療しても違和感を消すことは難しいと説明し経過観察です。因みにこちらの親知らずは完全に骨に覆われているので、トラブルの確率は低いです。

 


5年後。やはり時々違和感はあるそうですが、生活に支障のあるほどではないということでした。患者さんもこの歯の状態を完全に把握していますから、私と一緒に治療に参加しているような感覚があります。患者さんとこういう関係が構築できれば、治療は難しくてもチャレンジできます。治療の成功の確率が治療方針決定のバイアスにならないのです。多くの場合、それは良い結果をもたらします。

なお、歯根破折を避けるために、根管拡大は最小限にとどめています。根尖に透過像(病変)は全くありません。ルーチンとしてマイクロスコープを使用して治療していますが、結果論ですがこのような症例では使用しなくてもおそらく治療結果に影響はありません。湾曲しているし拡大も最小限なので、根管の中は入り口から半分程度までしか見えません。