フェネストレーションを歯根端切除術で対処した症例

このケース レッジはクリアして根管充填まで終えたのですが、不快症状は消えません。症状の経過からフェネストレーションの疑いが強くCT撮影を行いました。フェネストレーションの診断はCT無しには不可能です。結果として可能性は濃厚です。根尖に病変らしきものは見当たりません。

数ヶ月の経過観察の後、患者さんの同意を得て外科処置に踏み切りました。根管治療に着手する際には必ず外科処置になる可能性を説明します。なんでも治せると思うような自信家ではありません。
歯肉を剥離するとやはり根尖は骨から露出していました。病変はありませんでした。骨内に収まるところまで根尖をカットして念のためMTAで逆根充しました。フェネストレーションの外科処置は初めてでした。

剥離して根尖をカットするまでの手術の動画はこちらです。外科処置ですので苦手な方はご注意下さい。

一週間後の抜糸の時には、切開した傷に違和感があるもののずいぶん楽になったとのことでした。このまま症状が落ち着いてくれれば、治療で削った部分を(私は一切削っていません)コンポジットレジンで封鎖してひとまず治療は終了です。他院では抜歯もあり得るとの説明を受けたとのことですが、保存することができれば長期的に安定した歯列を維持することが可能です。
通常の根管治療を行った後に治癒しなかった場合の外科処置の治療費は半額に設定しているので、トータルの治療費は前歯二本で25万円程度でした。価値観は様々ですが、これは患者さんにとって歯科的にとてもリターンの大きい投資だったと思います。まだ術後経過が短いので成功の診断を下すのはもう少し先になりますが、ずっと止まっていた時計が動き始めたことは確かなようです。

 

フェネストレーション

正常な歯は図のように歯根全体が骨に埋まっています。

ところが根尖が図のように骨から飛び出ていることがあります。病気ではありません。これをフェネストレーションと言います。

それ自体は問題ないのですが、この歯に根管治療を施すと、違和感がある、噛めない、痛い、等の不快症状が消えないことがあります。

そうなってしまった場合は通常の歯内療法では治りません。歯根端切除術で骨の外に出ている部分を切除するしかありません。

外科的歯内療法は通常は治らない病変に対して行われる処置ですが、これはそれとは目的が少し違っています。ただし、術式は同じです。動画だと大変な処置のように見えるかも知れませんが、写っている骨の穴の直径は5mm程度です。術後に腫れるようなことも殆どありません。マイクロスコープを使用した外科的歯内療法(マイクロエンドサージェリー)の成功率は90%以上とされています。

フェネストレーションが原因で難治性根尖性歯周炎と診断された症例に対する処置:日本歯科保存学雑誌 / 55 巻 (2012) 1 号

下顎7番近親根の歯根端切除術

下顎7番近親根の根尖病変。サイナストラクトがあります。

赤丸の部分が病変です。
近親根に根充材が2本見えますが、1本はサイナストラクトから挿入して病変の位置を確認しているガッタパーチャーポイントです。6番が原因ののサイナストラクトの可能性もあったので確認しました。この頃はまだCTの導入前でした。

 

通院に何時間もかけての遠方からの患者さんなので、いたずらに治療回数を重ねることなく2回目の治療でMTAで根管充填しました。

しかし違和感は消えず、サイナストラクトが再発します。抜歯かエンドサージェリーしかありません。選択したのは今にして思えば無謀なのですが、エンドサージェリーでした。マイクロエンドサージェリーではありません。ルーペは使いますがレトロテクニックです。いざ始めてみるととてもマイクロスコープ下で施術できるようなテクニックを私は持ち合わせていなかったわけです。

 

術後3年。根尖を完全にはカットできていないかも知れません。それでもサイナストラクトは消失し、骨も再生しているように見えます。違和感も全くないそうです。感染部位は除去できていたということなのでしょうか。マイクロエンドサージェリーではそこを拡大して確認します。下の写真です。

このステップを踏まない歯根端切除で感染部を除去できたのは幸運だっただけです。たまたま保存できたから良かったのですが、専門的な講習も受けずにやっても殆ど失敗に終わるでしょう。その後専門医のトレーニングを受けましたが、それでも簡単な症例から少しずつステップアップして行く必要がある難しい治療です。実習を受けた程度でできるようになったとは思わないで下さいと、その際何度もインストラクターに念を押されました。あまりに難しい治療(主に部位に左右されます)は専門医に紹介するのがベストです。私もそうします。

さて、一般的には第二大臼歯の外科は意図的再植術が選択されます。この方は下顎がやや前突しており尚かつこの部位の頬側の骨が厚くなかったのでやりました。そしてなにより「先生がやってダメならあきらめます」と言って頂ける関係があったので踏み切りました。信頼に甘えてはいけないし、信頼に応える努力を続けなければならないと思わされた思い出深い症例です。救われたのは私だったというわけですね。