3本の歯にまたがった大きな病変のため診断に苦労したケース

根の先に膿がたまってそれが大きいから抜歯しましょうというという診断は間違っています。私の知る限りでは何ミリ以上になったら治せないという文献は無いと思います。やってみないと解らないと私は考えます。

下顎小臼歯2本(4番と5番)第一大臼歯(6番)まで広がった病変です。どの歯が原因なのかを診断するのは非常に難しいです。どの歯も同じような痛みがあり打診などの反応も明確ではありません。4番には生活反応がありません。修復物は非常に歯髄に近くまで及んでいます。怪しいのですが、とは言え歯髄の生死を決定的に診断する術はありません。鎮痛剤はよく効くそうなので非歯原生歯痛の可能性は低いです。

一刻も早く痛みから解放して差し上げたい。なのに診断がつかない。こういったケースはそう多くはないのですがこれは医療者としては辛い。

幸いこの状況を打破できたのは紹介元の歯科医院からご提供いただいた過去のレントゲン写真でした。そこには臨在歯に及ばない5番単独の病変が写っていたのです。

診断がつけば後は治療するだけ。メインのガッタパーチャを抜くと大量の排膿がありました。そして3日後の来院時には全ての症状は消えていました。まだ少し出血もあったのでその日は洗浄をメインに行って3回目の来院で根管充填を終えました。

このまま少し経過を追います。改善しなければ歯内療法外科です。

神経を抜く(抜髄)

たとえむし歯を取り除いた結果、神経が露出してしまっても神経を抜くことは滅多にありません。歯髄保存療法を選択することが多いです。ただし術前に痛みがなかった場合です。痛みがあった場合は神経を残すことは今のところありません。

Tooth is crying.

上が術前、下が根管充填後、その下が術前のCTです。

太いメタルポストが入っていて根管充填も非常に太くされています。サイナストラクトがあり病変も大きいケースです。大前提として歯は削るほど弱くなります。ですから悪い部分を除去する為の切削以外はその目的に正当な理由がない限り歯科的には禁じ手です。でも保険診療では仕方が無いとも思います。診療報酬が安すぎるのです。その代わり質は問われませんが。

さて、再治療にあたっても様々な除去は新たな歯の切削を行わないように慎重に行われなければなりません。動画を見れば解るようにメタルポストもガッタパーチャも一切歯を削らずに除去しました。根尖は大きく破壊されておりクラックも見つかりました。

予後に不安があることは患者さんには充分伝えています。そして意思決定は患者さんにあります。すべては患者利益になるように常に考えてはいるのですが結果が全てだとすると何が正しいのかは私自身もはっきりとは分からないです。抜いてしまえば悩まないのでしょうがそれはやっぱり違うと思うのです。