Stepwise Excavation 歯髄温存療法

無症状でも非常に深く進行したむし歯があります。痛みが出ていれば神経の処置をすることが多いと思いますが、ご本人が全く気づいていなかったような場合はなんとか神経を残したいものです。

このケースは完全に感染象牙質を除去すれば高い確率で神経が露出することになると思い、敢えて感染象牙質を残しその上にタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを置いてその上にコンポジットレジン充填を行いました。う蝕治療ガイドラインに沿った治療ということになります。歯肉の下に深く広がったむし歯だったので電気メスで歯肉を除去しています。この状態でラバーダムを掛けるのは不可能だったので尚更歯髄処置は避けたかったのです。

3〜12ヶ月後にリエントリー、つまりまたレジンを外して中を確認してレジンを詰め直します。成功すれば象牙質の硬化が観察されるはずです。

MTA根管充填

当院で行う根管治療はその殆どが治療のやり直しです。根管治療はやり直しの方が難易度は遙かに高くなります。根管の中に汚い物が一杯詰まっているのでまずはそれを取り除く必要があるのですが、これが難易度を上げる第一の理由です。詰まっている代表がガッタパーチャというゴムのようなモノです。これが本当に取れません。ここでやってしまうのはガリガリ暴力的に盲目的に削るというやり方です。動画に写っている器具につけて回しているドリルのようなものは一切歯がついておらず、したがって歯は削れません。このケースではその後レッジというこれもやっかいな所をクリアして根の先にアプローチします。

 

その後は徹底的に洗浄を行いMTAで根管充填を行います。下の動画は編集ソフトで手ぶれ補正をかけてみたのですがコンニャク現象といわれている揺らぎが出てしまっています。作ってる側としては気になるのですが、見ている方は気にしないで下さい。

サイナストラクトと歯根破折

歯肉にできたニキビのような膨らみ。サイナストラクトといいます。以前はフィステルと呼ばれていました。神経を抜いた後の管(根管)の中の細菌が骨の中に漏れ出て膿がたまり骨を融かして歯肉を突き破って出てきている状態です。根管治療をしない限り治ることはありません。サイナストラクトは原因の歯に繋がっているのでまずはそれを確認します。このケースでは間違えることはまずあり得ませんが、神経を抜いた歯が何本かある場合には必ず行わなければなりません。

赤く塗ったのがそうです。サイナストラクトからガッタパーチャポイントという造影性のあるゴムのような物を差し込んでレントゲン撮影をするのです。これで原因の歯を特定できたので治療説明を行い治療に介入することの意思決定が行われればステップを進めます。

被っていたジルコニアクラウンを除去してCTを撮影します。外さない状態でも撮影は可能ですがX線を通さない物は可能な限り除去しておいた方が画像にノイズが乗らないのです。

上の二次元のレントゲンでは明確には見えなかった病変がはっきり確認できます。おそらくパーフォレーションがありレッジがあります。前医は善意を持って一生懸命治療をしていたのはレントゲン写真からヒシヒシと伝わってくるのですが残念ながらなすべきことを根本的に間違っているという不幸です。

最近よく思うのですがレジンのコアは白ではなくて何らかの色を付けて欲しいと思います。歯と同色だと除去が難しいのです。ある程度取れたところで残念ながら歯根の破折を確認しました。サイナストラクトの位置などからある程度予測はしていましたが確定診断は今回は破折線が確認できるまではつきませんでした。しかし抜歯するという意思決定はこの破折線によって迷うことなく行うことができました。この時点でその日の治療は終了し次回は抜歯となります。

治療に介入するには正当性が必要でむし歯に関しても全てのケースで治療する必要はありません。抜歯となれば尚更のことで事を急いてはいけません。