根管内破折器具除去(その1)

根管治療において、不幸にも器具が根管の中で折れてしまうことがあります。頻度としてはとても少ないのですが(私の場合は歯科医師になってから今まで5本程度。開業してからはたぶん1本。患者さんには告知してあります)これは避けられない事故です。
折れてしまっても感染がなければ問題がないことが多いのですが、ラバーダムも隔壁もなく、仮封もきちんとなされていなければ感染根管になります。
根管治療で一番重要なのは、マイクロスコープでも、綺麗な根管充填のレントゲンでもありません。細菌感染を防ぐことです。細菌はプラークにも、むし歯にも、唾液の中にも居ます。

さて、感染根管になってしまうと、破折したリーマーを除去して根管内を綺麗にしたいのですが(リーマー自体が感染源ではないが、根管内を綺麗にするには、リーマーが邪魔になる)これは相当に難しいのです。除去するために根管を大量に削除してしまえば、歯の強度が落ちてしまいます。リーマーは除去できても歯が折れてしまえば、本末転倒です。

さて、下顎大一大臼歯の近心根での破折症例です。ネジのように見えるのが破折器具です。この歯の治療にはおそらくラバーダムは使われていなかったのでしょう。

破折リーマー
治療の選択肢は
1 感染根管治療
2 近心根だけ抜歯
3 抜歯
4 このまま経過観察
5 外科的根管治療

1の感染根管治療を行うためには破折したリーマーを除去しなければならないわけですが、この症例に出会った時点での私の力量では除去に成功する確率は高くはなかったのです。5の外科的根管治療(歯根端切除術)は、私には部位的に不可能なので除外(簡単な部位ならやれます。6月に本格的なトレーニングを受けてきますので、もう少し適応範囲が広がると思います。マイクロエンドサージェリーというコースです)やるとすれば意図的再植術でしょうが、根の形態を見ると抜歯の際に歯が割れてしまいそうです。
治療の難易度は5を除けば上から難しい順番です。抜歯してインプラントというのが簡単で確実で良いのかも知れません。「抜かなくても良い歯を抜歯してインプラントで儲ける」悪徳歯科医が話題になりますが、そもそもこの歯の治療を確実に行うことができる歯科医師は、インプラントを施術できる歯科医師に比べて私も含めて圧倒的に少ないのです。ただインプラントが保存できた歯よりも予後が良いというエビデンスは無いらしいのです。とすれば、残せる歯は残すというのが最良なのでしょう。この症例のような保存の難しい歯を残せるかどうかは、ひとえに歯科医師の技量にかかっている。求められるのは技術のレベルアップです。なお誤解の無いように書いておきますが、私はインプラントはとても有効な治療の選択肢だと思っています。

幸い一時的にあった痛みは引いているので、この症例での今回の意思決定は4のこのまま経過観察ですが(逃げてるのかもしれません)、根尖病変に自然治癒はありませんから、いずれ治療をしなければなりません。しかし確実にこの破折器具を除去できるのか?

続きます。

MTAでの根管充填

神経を抜いて被せたけれど、痛みが続くため再治療になったら治療中の痛みに耐えきれず、治療後も痛みが続くというということで転院してきた患者さんです。
神経が無い歯の治療で治療中に強く痛いのは、根の先(根尖孔)から外に器具を押し出している可能性があります。

上は初診時のレントゲン。根管内には水酸化カルシウムが入っていました。セメントで蓋がしてありましたが(仮封)これでは密閉されず簡単に感染してしまいます。そもそもこれではラバーダムも装着できません。

画像が不鮮明ですが、治療中のレントゲン。根尖孔は破壊されていました。通常のガッタパーチャでの根管充填では対応できないケースです。

MTAでの根管充填。MTAは根管の外に押し出しても予後に悪影響が出ない唯一の材料です。根尖が壊れていても不安無く詰めることができます。3枚目は根管充填後のレントゲン写真です。根の長さピッタリに根管充填されているように見えますが、これは間違いなく根の先に飛び出しています。根管充填の際にマイクロスコープで見えていた破壊された根先孔に加圧しましたから(密閉するためには圧が必要)。


こんな充填器を使います。

不快症状は消えました。