正中離開

ダイレクトボンディングで正中離開を閉じました。
治療時間は当日は100分程度ですが、事前に印象してワックスアップしてシリコンインデックスを作るのでトータル130分位掛かっています。通院回数は二回です。
治療は顕微鏡下で行われます。殆どの治療過程が無音で行われますから、患者さんは大抵寝ます。人間寝ると静止状態を保てなくなりますから(ビクンと動くこともある)、1ミリの動きでも視野が大きく動く顕微鏡下では治療が継続できなくなります。何度起こしても寝てしまう方には「寝ると死にます」という言葉が効果的です。ちょっと笑うことで目を覚ますようです(笑)。

歯は全く削っていません。

どのくらい持つのか?
強度はどのくらいあるのか?
色は変わらないのか?
よく訊かれる質問ですが、これについてはセラミッククラウン等には敵わないです。形態についても限界があります。
ただこの治療の最大の利点は、もし外れてしまっても元に戻るだけということです。削って被せた場合はもう絶対に元には戻りません。
つまり全く歯にダメージを与えないので、将来何らかのトラブルで抜歯になってしまう可能性が矯正を除外すれば最も低い治療です。
ただしそう簡単に外れてしまうことはありません。もっとはっきり言えば外れてしまったことはまだ一回しかありません。でもあるていど時間が経っていれば保証はしません。この辺の微妙なニュアンスをご理解頂ける方が治療の対象となります。むし歯ではありませんから保険での治療は認められません。

マイクロスコープは根管治療に必須の道具か?

実はマイクロスコープがなくても根管治療は大抵は上手くいきます。根管治療においてもっとも重要なのは根管内に細菌を入れないことと、入ってしまった細菌を可及的に減らすことです。従って、ラバーダムなどの根管内への感染防御が最も重要で、それとマイクロスコープは全く関係ありません。

それでもマイクロスコープがないと難しい治療というのがあるのも事実です。

下顎大臼歯の近心根のパーフォレーションとイスムスがあって、舌側にサイナストラクトがあるケースで抜歯の宣告をされた歯です。写真をクリックすると拡大します。根管内の排膿が良く見えます。こういうケースではマイクロスコープが活躍します。

と、あんまり書くことがないので本日はタイトルだけ大仰な繋ぎです。

ザ・デンタルフィロソフィ

今回は自分語りですので読みとばして下さい。先日、あるセミナーを受講して昔のことを思い出したのです。

大学を卒業したてのころの私は、入局した医局が総義歯の講座だったこともあり、補綴学が面白くてもっぱらその勉強の日々でした。当時はナソロジーという咬合理論が広く支持されていて、その重鎮の一人がピーター・ドーソンというレジェンドでした。氏の「オクルージョンの臨床」を何度も読みかえしたあの頃が昨日のことのように甦ります。

そんなある日、大学病院の地下一階の書店で、いつものように専門書の立ち読みをしていると、歯科医学書っぽくないこの本のタイトルの下にドーソンの名前を見つけ、引かれるように手に取って表紙を開いたのでした。我が邂逅の時です。

セミナーは臨床の話でもなく、増患とか増収とか経営とかの、もの悲しいコンサルでもなく、まさしく歯科医療のフィロソフィーを語るものでした。講義の根底には間違いなくこの本があると思います。

1987年に出版されていますから、30年の歳月が流れました。カバーも中身もすっかり黄ばんでしまいましたが、書いてある哲学は色褪せることなく時を超えて確かにここにあります。ずいぶん遠回りをしてきましたが、プロフェッションとしての歯科医師の理想に向かってもう一歩踏み出そうと思っている私の背中を、再び押してくれた私の中のエバーグリーンです。