ザ・デンタルフィロソフィ

今回は自分語りですので読みとばして下さい。先日、あるセミナーを受講して昔のことを思い出したのです。

大学を卒業したてのころの私は、入局した医局が総義歯の講座だったこともあり、補綴学が面白くてもっぱらその勉強の日々でした。当時はナソロジーという咬合理論が広く支持されていて、その重鎮の一人がピーター・ドーソンというレジェンドでした。氏の「オクルージョンの臨床」を何度も読みかえしたあの頃が昨日のことのように甦ります。

そんなある日、大学病院の地下一階の書店で、いつものように専門書の立ち読みをしていると、歯科医学書っぽくないこの本のタイトルの下にドーソンの名前を見つけ、引かれるように手に取って表紙を開いたのでした。我が邂逅の時です。

セミナーは臨床の話でもなく、増患とか増収とか経営とかの、もの悲しいコンサルでもなく、まさしく歯科医療のフィロソフィーを語るものでした。講義の根底には間違いなくこの本があると思います。

1987年に出版されていますから、30年の歳月が流れました。カバーも中身もすっかり黄ばんでしまいましたが、書いてある哲学は色褪せることなく時を超えて確かにここにあります。ずいぶん遠回りをしてきましたが、プロフェッションとしての歯科医師の理想に向かってもう一歩踏み出そうと思っている私の背中を、再び押してくれた私の中のエバーグリーンです。