口腔内スキャナーの不調

口腔内スキャナーのありがたみをつくづく実感できるのがインプラントの印象のときです。インプラントの印象は大雑把に言えば位置関係だけ記録できれば良いので、簡単と言えば簡単なのですが、いろいろ準備が必要ですしそれなりの時間は必要です。ところがデジタルスキャンだとスキャンボディーというパーツだけ準備すれば、短時間に楽に済ますことが可能です。いや、可能なはずでした。

ところがどういう訳か、今回のスキャンはなんだか上手く進みません。15分もあれば全てが終わるはずのスキャンに60分以上掛かってしまいました。いちいち動作が遅いのです。遅いというか言うことを聞かないのです。それでもなんとか撮り終えて患者さんを送り出し、さてデータをラボに送ろうとしたらエラーで送れません。どうやってもダメなので急遽患者さんに連絡してもう一度戻っていただきました。

残っているデータを活かそうなどとは考えずに最初からもう一度スキャンし直すことにしてスタートしましたが今度はカメラからPCにデータが送れません。そしていじっているうちにとうとうPCごとフリーズしました。今日は終わったとその時は思いながら強制再起動です。

で、再起動してやり直したらアッと言う間に完了してしまいました。さっきまでの苦労はなんだったのよ状態です。トリオス君よ、なんとなく体調が悪いなどという人間みたいな挙動をしないで、ダメならスパッと落ちてくれよ。

25年経過したインプラントのリカバリー

他院で埋入したインプラントが緩んでしまったので何とかなりませんか?というご依頼。上部構造(被っている部分)は流石に経年劣化はしていますが、骨は非常に安定した経過をたどっています。理想的には上部構造の作り直しとは思いますが、患者さんはできるものならこのまま使いたいとのご希望でしたのでその方向で進めることになりました。

インプラントのメーカーは50社とか100社とか有ると思いますが、規格がそれぞれ違っていてそのメーカー独自のドライバーとかネジとかが使用されます。これが非常に困る訳でして、せめてネジの頭だけでも揃えてくれよと本当に思うわけです。

とにかく色々な伝手を使ってメーカーを特定して、道具を借りて交換用のスクリューを用意していざ始めたわけですが、緩んでいた間に付着した汚れの除去がすご〜〜く大変で、全く使い慣れていない道具がまた使いづらいったりゃありゃしなくて、とっても苦労したのでした。交換用のスクリューもヘッドの形態が違っていて結局使えませんでした。それでも最終的にはリカバリーできたので今回のミッションは終了です。

で、T.L.インプラント凄いなぁというのが感想です。B.L.でスクリューが緩んで2年も経過していたら何かもっと深刻なトラブルになっていたと思うんですが、T.L.ならこれだけ汚れても感染しようがないのですね。
T.L.というのはティッシュレベル、B.L.というのはボーンレベルのことです。今の主流はB.L.だと思います。興味がある方は調べてみて下さい。

保存不能

クラウンが取れてしまったので診て欲しいと遠く北国からのメールが写真付きで届きました。

返答は診てみないと解らないことが前提になりますが、この時点では大丈夫そうに思えたのでその旨をお伝えしました。

来院された時の写真です。

これはかなり厳しいとお話ししました。何度か書いていますが最終的に歯を保存できるかどうかは、どのくらい健全な歯質が残っているかにかかっています。たとえ保存できたとしてもすぐに割れてしまう可能性もあるわけで、無理に残すよりも抜歯してインプラントにするということが、結果的には正しい選択である場合もあるということはしっかり伝えておかなければなりません。

それでも患者さんは保存を希望されたのでCTを撮影しました。

更に保存の難しさが見えてきます。歯の厚みがありません。もうこの時点で引導を渡すのが正しかったのかも知れませんが、それでもなんとか保存したいというご希望でしたので、着手して私がダメだと診断したら諦めて頂くということをお話しして軟化象牙質を削除しました。そして十秒で保存不能の診断を下しました。

マイクロスコープでの画像ですが青線の中の部位は歯質がありません。

ここは髄床底(ずいしょうてい)という部位ですが、通常ここを削ることには何の意味もありませんしここがむし歯になることもまずあり得ません。歯科医師は歯を無駄に削りすぎます。

保存不能の診断を下すまで来院されてから90分程度です。そこに改善の余地はあるとは思いますがこれを無駄な時間と思う方には当院はマッチしないと思います。幸いそこに価値を見いだしてくださって、一本奥の歯のむし歯治療とこの歯の抜歯とインプラント治療をご希望されました。

抜歯した歯はこれです。三分割しました。ダメでしたね。

当院のコンセプトはできる限り歯を残すことでなのですが、それが絶対的に正しいのかはわかりません。それでも抜歯の判断は初診で数分で決めてしまうような簡単なことではないと思うのです。

追記
全てのケースでこのように時間を掛けるわけではありません。一瞬で抜歯以外の方法は無いと診断する場合もあります。