総義歯(その3)

(その2)はこちら。

配列後。この状態で見た目のチェックを患者さんのご希望を訊きながら行います。仮縫いのようなものです。ピンクの部分はワックス(ロウ、ロウソクのロウです)でできています。溶かして歯を動かすことができます。

口の中に入れてみます。試適(してき)といいます。噛み合わせはどうか? 舌が窮屈では無いか? 前歯の歯並びはどうか? などを患者さんと確認します。特に見た目は個人的な好みなのでご希望をじっくり確認します。唇の動きの中で見ていく必要がありますから世間話なんかしますね。ジャガイモ植えたので腰が痛いそうです(笑)。写真も一応は撮りますがあまり参考にはなりません。かっこよく言えば「動的平衡」を探します。単語の使い方が間違っていますがここでは「動きの中でバランスをとる」というようなニュアンスです。患者さんの希望に沿ってその場で歯を並べ替えます。

さてここまでくれば次はいよいよ完成です。ワックスをレジン(プラスティック)に置き換えます。レジンは固める際に変形する材料ですので慎重な技工操作が求められますが、それでも変形は避けられません。その為、完成後にもう一度咬合器につけなおして咬み合わせを調整する必要があります。技工所に外注で義歯を作ってもらう場合には模型は残らないので、完成義歯が届いた後に咬合器につけなおすための記録を取っておきます。テンチのコアといいます。

義歯、特に総義歯は、口の中で咬んでもらって咬みあわせを調整するというのは殆ど不可能です。軟らかい粘膜の上に乗っているわけですからちょっとしたズレは吸収してしまうのです。それで問題が出なければここまで神経質にやる必要は無いのかも知れませんが、入れた後に調整が必要になる可能性はなるべく排除しておきたいのです。

院内技工(私が作る)場合はもっと正確に咬合器に戻す方法があるのですが、さすがに義歯を自分で作るのは大変なので今はやっていません。

続きます。

総義歯(その2)

その1はこちら

ゴシックアーチトレーサーという装置を入れて、カチカチ噛んでもらったり顎を前後左右に動かしてもらうとこのように軌跡が残ります。

見やすくするとこんな感じ。この矢印のような跡の先端が咬み合う位置です。この軌跡が安定しない場合は難症例です。

矢印の先に穴を合わせて板を張り付けて、咬み合わせの記録の際にズレないようにします。下顎の装置についているピンがここに入り込むわけです。

咬んでもらってそこにこのオレンジ色のシリコンを流し込んで、上下の関係を記録します。

そして下顎の模型を着け直します。

これで歯を並べる準備が完了しました。

続きます。

総義歯(その1)

新しい総義歯を作ったのに全く入れることができないということで来院されました。そういった場合でもその義歯を見せて貰うことで重要な情報を得ることができることがあるので、持参していただきます。その結果、再製することになりました。

総義歯用の印象用トレー。それぞれにサイズのバリエーションがあります。

下顎用のフレームカットバックトレー。今回は大きな骨隆起があったため使用しませんでした。

かなりラフな模型です。

青丸の中は気泡です。印象のミスなのですが採り直すまででもありません。赤丸の中が骨隆起。

上の模型を使ってこのような印象用のトレーを作ります。

そしてまた模型を作ります。まだラフな模型ですが、上の白い模型よりは良くなっています。上顎の真ん中が薄くなって穴が開いてしまいましたが、これもあまり関係ないのでそのまま作業を進めます。下の模型は落として割ってるし(汗)。

上の模型を使ってまたこのような印象用トレーを作ります。ピンクの部分はロウでできていて融かしたり継ぎ足したりすることができます。大体の噛み合わせの高さを探って噛んだ状態で型を採るためのトレーです。上顎の義歯では必要ないことも多いのですが、下顎は口を閉じた状態で印象したいのです。

印象が終わって(写真は撮り忘れました)上顎は金属床のプレートを作ります。下顎はレジン床。これで二回目の噛み合わせをとります。

銀色の部分が下顎骨隆起。邪魔ですが外科的切除をしないので仕方がありません。必要性を必ず説明していますが外科的な除去手術をしたケースは今のところありません。ご希望があれば病院口腔外科に紹介依頼することになります。

この骨隆起が邪魔になって、義歯の吸着(歯茎に吸い付くこと)が得られない可能性が高くなりますから、義歯の安定剤が必要になるかも知れないことを説明しておきます。入れ歯の安定剤は色々なものがありますが、ゴムのような厚みのでるものは、このように新しい隙間のない義歯では使ってはいけません。厚みがあると言うことは咬み合わせが変わるということだからです。粉末の糊のようなものがありますからそれが良いです。もちろん使わないで済めばそれがいちばん良いです。このケースでもこの隆起がなければ吸い付いて外れない義歯が作れると思います。上顎においても口蓋をくりぬかないと気持ち悪くて入れていられない方が居ます。骨が入れ歯の形に沿って減ってしまうので避けたいのですが無理だったことを何回か経験しています。その場合も安定剤(接着剤)を使うことはあります。

フェイスボウトランスファーという作業を行って咬合器に仮のマウントをした状態。ゴシックアーチトレーサーという装置も装着しておきます。これを使ってもう一度咬み合わせを記録して付け直しをするのでこの段階では下の模型は仮付けになっています。

ここまで型採りが3回。咬み合わせを採ること3回です。下顎はさらに歯が並んだ状態になってからもう一度それを使って型採りをすることもあります。ここまで、金属床のプレートは技工所に出していますが、それ以外の技工は全て私がやっています。デジタルの介入するところ皆無ですが、おそらくこれも将来的には変わっていくと思います。治療用の義歯を使って最終義歯を作っていくような方法では、義歯のデジタルコピーができると術者も患者も時間の制約から解放されると思います。

ちゃんとした入れ歯を作るにはそれなりのステップを重ねて治療を進めていく必要があります。ただしここで書いている手法はあくまでもその一例で、もっと別のアプローチもあります。

長くなったので続きます