フェネストレーションを歯根端切除術で対処した症例のその後

このケースのオペ後約40日後です。

残念ながら不快症状を消し去ることはできていません。症状の改善はあるそうです。最初から保存は無理で治療に着手しないという選択をしたことはありますが、着手して不快症状を消せなかった最初のケースとなってしまいそうです。

「医療に完全は無いです」と私自身良く言うのですが、いざ当事者になると、とたんに説得力を失うように思えてしまいます。冷静で理解力のある患者さんの「当面はこの状態とつきあってみます」という言葉に助けられています。とにかく誠実にずっとフォローしていきます。

フェネストレーションを歯根端切除術で対処した症例

このケース レッジはクリアして根管充填まで終えたのですが、不快症状は消えません。症状の経過からフェネストレーションの疑いが強くCT撮影を行いました。フェネストレーションの診断はCT無しには不可能です。結果として可能性は濃厚です。根尖に病変らしきものは見当たりません。

数ヶ月の経過観察の後、患者さんの同意を得て外科処置に踏み切りました。根管治療に着手する際には必ず外科処置になる可能性を説明します。なんでも治せると思うような自信家ではありません。
歯肉を剥離するとやはり根尖は骨から露出していました。病変はありませんでした。骨内に収まるところまで根尖をカットして念のためMTAで逆根充しました。フェネストレーションの外科処置は初めてでした。

剥離して根尖をカットするまでの手術の動画はこちらです。外科処置ですので苦手な方はご注意下さい。

一週間後の抜糸の時には、切開した傷に違和感があるもののずいぶん楽になったとのことでした。このまま症状が落ち着いてくれれば、治療で削った部分を(私は一切削っていません)コンポジットレジンで封鎖してひとまず治療は終了です。他院では抜歯もあり得るとの説明を受けたとのことですが、保存することができれば長期的に安定した歯列を維持することが可能です。
通常の根管治療を行った後に治癒しなかった場合の外科処置の治療費は半額に設定しているので、トータルの治療費は前歯二本で25万円程度でした。価値観は様々ですが、これは患者さんにとって歯科的にとてもリターンの大きい投資だったと思います。まだ術後経過が短いので成功の診断を下すのはもう少し先になりますが、ずっと止まっていた時計が動き始めたことは確かなようです。

 

フェネストレーション

正常な歯は図のように歯根全体が骨に埋まっています。

ところが根尖が図のように骨から飛び出ていることがあります。病気ではありません。これをフェネストレーションと言います。

それ自体は問題ないのですが、この歯に根管治療を施すと、違和感がある、噛めない、痛い、等の不快症状が消えないことがあります。

そうなってしまった場合は通常の歯内療法では治りません。歯根端切除術で骨の外に出ている部分を切除するしかありません。

外科的歯内療法は通常は治らない病変に対して行われる処置ですが、これはそれとは目的が少し違っています。ただし、術式は同じです。動画だと大変な処置のように見えるかも知れませんが、写っている骨の穴の直径は5mm程度です。術後に腫れるようなことも殆どありません。マイクロスコープを使用した外科的歯内療法(マイクロエンドサージェリー)の成功率は90%以上とされています。

フェネストレーションが原因で難治性根尖性歯周炎と診断された症例に対する処置:日本歯科保存学雑誌 / 55 巻 (2012) 1 号