メタルセラミッククラウンで補綴した前歯の外科的歯内療法

術前。スクリューピンを除去し根管治療を行いました。

根管治療後、メタルセラミクスで補綴しました。隣の歯と連結しています。上の画像は治療3年後のレントゲンです。

サイナストラクトができています。再発です。補綴物には問題がありませんし、やれるだけのことはすでにやってあるわけですから再根管治療しても無駄ですので、歯根端切除術を提案し了承していただきました。切り札です。

この処置の敵はなんと言っても出血です。見えなければ顕微鏡治療の意味がありません。うまくコントロールできました。

縫合終了時。
一週間後に糸を抜きました。今回は珍しく術後に痛みがあったそうです。

術中の動画はこちらにあります。見たくない方もいらっしゃるでしょうから、いつものように直接ここに貼り付けるのは控えます。

追記 18ヶ月後の状態はこちら。

歯の神経がどうなっているのか?

何年も診断が付けられない歯があります。
クラウンが被っている歯です。

主訴は違和感。冷たいものにしみる。時々疲れた時に痛くなる。幸いどの歯なのかは特定できています。

風をかけると確かにしみます。再現性があります。叩いても痛みは無く、物を介在させて強く咬んでもらっても痛みはありません。この状態がもう5年くらい続いています。我慢できないほどの痛みがあるわけではないのです。

神経の生死はそこに流入する血液の流れがあるかどうかでしか判断できません。そしてそれを知ることは臨床的には不可能です。問診や歯髄の検査(冷たいものをつけてみるなど)はすべて間接的に行われるもので確定診断ではないのです。

結局歯髄を取ってみないと解らないのです。しかし取ってみて何もありませんでしたでは医療行為ではありません。取ってから組織検査をして実は炎症は全体には波及していなかったということだってきっと多いと思います。現在の歯内療法ではそれは歯髄保存療法の適応の可能性が高いのです。

歯髄の診断とは事程左様に難しいのであります。歯内療法を学べば学ぶほど神経を抜くという治療からは遠ざかっていきます。実際私も殆ど行っていません。ただし大きなむし歯になっていてレントゲンでも神経に達していて、ズキズキ痛いなどというケースは何の迷いもありませんからご心配いりませんし、一般的には歯科の診断はとても簡単です。これはごく少ない特殊なケースでのお話です。

歯髄診断の難しさはなかなか患者さんには伝わりにくく、優柔不断だとか診断力不足だとか思われがちなのでしょうが、必要のない侵襲を加えるのは避けなければなりません。曰く、地獄への道は善意で舗装されている。なんとかしてあげたいという善意が確かに善行だった時、初めて医療は祝福されるのです。

エンド由来歯痛

歯内療法は多くの場合痛みを取り除くということが最重要課題になります。その痛みが歯に由来していれば治療効果が出る可能性は高いのですが、それが歯の所為でなければ歯を治療しても痛みは引きません。たとえ抜歯しても痛みは消えません。
幻肢痛という言葉をご存じでしょうか? 怪我や病気によって四肢を切断した患者さんに現れる失った部位の痛みをいいます。これと同じようなことが歯でもおきるのです。

私にはこういった歯に直接原因の無い種類の痛みを取り除くことはできません。つまり治療することができないのですが、診断する能力は高めておく必要があります。学ぶ機会があれば積極的に参加するようにしていますし、書籍も読むようにしています。直せない疼痛に着手するのは患者さんにとっても歯科医にとっても悲劇しか生みません。

ただ歯科医師の中でもこの分野の認知度は非常に低いのが現状のようです。