上顎6番の口蓋側のサイナストラクト

上顎6番の口蓋側にできたサイナストラクトです。頰側に出る方が多いのですが前歯でも小臼歯でも口蓋側にも出現します。下顎で舌側に出ることもあります。

上の写真のように(同じ患者さんです)サイナストラクトは大きくなったり小さくなったりを繰り返しますが、自然治癒することはありません。説明の結果、患者さんは治療の意思決定をされました。

インレーを外した状態。真っ黒に汚れていて悪臭がします。この段階でCTの撮影。CTは金属があると像が乱れるのでなるべく金属を外した状態で撮影するようにしています。

口蓋根の根尖に大きな病変があります。病変に沿って上顎洞底が盛り上がっているように見えます。歯性上顎洞炎も疑われますが、幸い鼻症状は無いそうです。

歯性上顎洞炎に関する書籍はあまりありませんが、この本は耳鼻科医が書いたものです。当然と言えば当然なのですが、歯内療法のことはあまり書いてありません。現代の歯内療法を学んだ歯科医師にとっては今回のこのケースは根管治療の適応であり、そう低くない確率で治癒に向かうであろうと考えると思います。

通法に従って破折の有無を確認して隔壁を作ってラバーダムをセットして先ずは口蓋根管の治療に着手しました。

ここまで綺麗になりました。ガッタパーチャポイントを除去するとこれも真っ黒に汚染されていました。ここまでが一回目の治療、約90分でした。

5cmに100万円

メーカーにお願いしてマイクロスコープのパーツのバリオスコープ(Varioskop100)をお借りしました。ダイヤルが付いている下に伸びている筒のような部分です。これを追加するとフォーカスの深さが20cmに増すのです。標準は10cmです。センターから上下に5cmずつフォーカスの範囲が広がるわけです。
別にフォーカスはいいのです。もう体が覚えていてハンドルを持って鏡筒ごと上下に動かしてフォーカスを合わせるのは苦ではないからです。

ではどうしてデモ品を借りたのか? マイクロスコープのヘッドと患者さんとの間隔を大きく取りたいことが希にあるのです。特殊な器具を特殊な用途で使うときにマイクロスコープに器具が当たってしまうことがあるのです。そのとき、5cm離せるというのは魅力的なのです。

というわけで見積もりを取ると悪い予感は当たって約100万円でした(滝汗)。これが今回の意味不明のタイトルというわけです。

動画は実際の顕微鏡像と操作の状況を並列に写してあります。良い思い出にしたいので撮影してみたというわけです。ほんのちょっとの不便さの解消を追い求めたらキリがありません。出番はひと月にあっても一回。これはさすがにコストパフォーマンス悪すぎます。さよならバリオスコープ。

外科的歯内療法(意図的再植術)

この症例です。

サイナストラクトが再発しました。外科処置に移行です。

上顎7番は部位的に歯根端切除の対象にはならないので意図的再植術を選択します。一度抜歯して根尖をカットして抜いた場所に戻します。

根尖孔が黒いのはMTAが見えているからです。プロルートMTAは硬化すると酸化ビスマスのせいで黒くなります。

歯根端をカット。MTAで根充してあるので逆根管充填は必要ありません。周辺の歯質まで黒変しています。黒変を避けたい部位にはビスマスフリーの別のMTAを使う必要があります。

抜歯窩を掻爬。

抜歯窩に戻して縫合固定します。外科という切り札を切ったのでもう次の一手は無くなりました。結果が全てです。良い報告ができることを祈るしかありません。