根尖病変とCBCT

根尖病変の診断にはCTによる画像診断が、そのほかの撮影方法に比べて正確だという論文があります(Lemagnerら 2015)。まあ、当たり前と言えば当たり前なのですが、これは通常のレントゲン撮影では写らない病変があるということを示唆しているとも読み取ることができます。特に下顎のように厚い皮質骨に覆われていると、病変はそれにカバーされてしまって全く確認できないことがあります。

このケースは左上顎7番の腫脹と動揺と痛みが主訴でした。特にむし歯は確認できず、動揺度2度でポケットは7ミリを超えているので、歯周病の急性発作だと思ってデンタルレントゲンを撮影します。

根尖に透過像が見えますが、インレイ(白く写っている部分)の下にむし歯は見えず、この時点では根尖病変かどうかは、半信半疑でした。これとは関係ありませんが、デンタルレントゲンにはバーンアウトとかマッハ効果などと呼ばれるの虚像のようなものが写り込むことがあるということも知っておかなければなりません。病変じゃないのに病変のように写ることがあるということです。

さて、エチルクロライドで冷反応を診るとバイタルサインがありません。簡単に書くと、ギンギンに冷たいものを歯に押し当てても凍みません。過去に強く痛んだことは無かったかを再度問診しますが、記憶はないとのことでした。痛みの機序はAδ繊維だとかC繊維だとかの歯髄の生理学を理解する必要があるのですが、簡単に書くと、通常は神経が死ぬ時はガッツリ痛みます。

更なる情報が欲しいのでCTを撮影しました。ハッキリと大きな病変が確認できます。一目瞭然です。上顎洞粘膜の肥厚もあるようです。

赤く塗った部分が病変です。

当院のCT装置は顎全体を撮影する装置ではなく狭い範囲を撮影するものなので、被曝量は比較的少ないです。だからといってむやみに撮って良いとも思いませんが、CTデータは上のレントゲン像の軽く128倍の情報量があります(数字に根拠はありません(笑))。私は必要なら躊躇無く撮影します。それが患者利益だと考えるからです。なお、保険ではごく一部の特種な場合にしかCT撮影は認められていません。

さて、診断はエンドペリオ病変で、Simonの分類のⅡ型と思われます。確定診断はインレイを除去して歯髄を診てからになります。歯髄の失活の原因がその時に判明すると思われます。

診断にとても時間が掛かりました。次回のアポイントで意思決定があれば治療に着手します。歯科治療は多くの場合歯質の削除を伴います。後戻りはできませんから着手するに値する根拠が必要になります。したがって診断は非常に重要で、特に歯内療法においては尚更です。にもかかわらず保険では診断は全く評価されず収入は0です。良いとか悪いとかではなくそういうシステムなのです。

最後はオマケ動画です。日本歯内療法学会のCTの解説です。私も会員で学会費も払ってるので貼り付けちゃいますが、問題があったら通報して下さい(汗)。